1.迷いウサギ

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「はじめくん、こんにちは。おでかけ?」 かえでは高校ではアイドル的存在。きれいにまとめたポニーテールに、くりくりの目。天使のほほ笑み。膝丈の白いワンピースがまぶしい。 「ああ、うん。駅前のペットショップ」 「ペットショップ? 飼ってた犬は死んじゃったって言ってなかった?」 「それが、庭にウサギが迷いこんできて。飼い主が見つかるまで預かることにしたんだ」 「そうなんだ。ウサギいいね、飼い主見つかる前にまた見せてよ」 そう言われてはじめはドキッとした。小学校まではよくかえでも家に遊びにきていたが、それ以来きていない。遊びに行きたいと言われたようで顔が赤くなる。勘違いもはなはだしいが。 「うっ……うん。よかったら勉強の息抜きにでも」 「ありがとう。ねぇ、はじめくんもお兄さんと同じA大の医学部めざすの?」 はじめとかえでは塾でも同じ医学部コース。かえではいつもいちばん前の席で真剣な眼差しを黒板に向ける。誰しもが一度は恋する高嶺の花だ。 「いや、そこは無理。M医大目指してるけど……」 「けど?」 黙りこんだはじめの顔を、かえでは覗き込む。あんまり近づかないで!! 「夏休み前はD判定だった。だからもっと勉強しなくちゃ」 「そっか……。お互いがんばろうね!」 憐れみともとれるその笑顔に、胸がギュッとなる。かえでは日本で1番難関と言われる大学の医学部にすら、楽々と合格できるくらいの秀才。 泥臭く勉強に明け暮れなくても、志望校には余裕で入れるのだろう。 なんだかバツが悪くなってかえでと早々に別れた。悪気はないのだろうが、あの透き通るような目で見つめられるのが辛かった。
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