怒れるヒーロー

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 目的が達成されたからか廊下に出た途端に変身は解けて、結城はすぐに助けを呼んだ。涙をぼろぼろ零しながら新見達がどんなに酷いことをしたか訴えた。泣いて、泣いて、怒った。常にない結城の泣き顔と怒りに周囲は驚き、それを招いた人間に憤りを隠さなかった。  折原が独断で警察も呼び、なんでか怯え切っていた7人は素直に罪状を認め逮捕された。この事件は明らかになった前代未聞の不祥事として暫く新聞を騒がすことになる。香崎は重傷でしばらく入院することになってしまったが意識はすぐに戻り、事の次第を聞いて喜んでいた。  騒ぎが落ち着いてきた頃、さり気なさを装って木河は結城に会いに来た。件のキーホルダーは素質があると判断した人間に渡す変身アイテムだったとその時に明かされた。変身の形態は定まっておらず、木河も和風テイストもあるんだね、なんて興味津々に頷いている。まだまだ研究の途中らしい。総務課の仕事も続けたいという意を汲んでくれ掛け持ちで良いと聞いた結城はどうするか決めた。  次の日、総務課に正式に結城への要請が届いた。  「え、ヒーローやるの?」  驚く周囲に少し悩んで結城は微笑った。  「ご指名だし、ね」  とりあえず1度は変身してしまったのだからという自分への言い訳。往生際が悪いがそう簡単に自分に素直になれるわけじゃない。けれど本音は怒ったことで世界が広くなった気がしたからとわかっている。誰かのために怒れる自分で在りたい。今からでも、きっと遅くないと結城は信じることにした。そう、当面はこの会社の膿を出して本当の意味で自他認める良い場所にすることから始めよう。
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