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それから彼女は三か月、俺の部屋で過ごした。ちょっと放っておくとまた逆戻りしそうだとかなんとか言って何だかんだ家事をしてくれていた。朝食はしっかり食べ、健康にそった弁当を食べ、掃除された部屋でしっかり休息をとる。そのおかげかなんだか気持ちがすっきりしてきた気がする。まだあの子の死は辛いが、前のように重く潰されるようなものではなくなった。それも、あの日彼女が来てくれたからだろう。本当に彼女は俺の辛いところを持って行ってくれたのかもしれない、なんて馬鹿なことを考えていた。
「なあ、本当に帰るのか」
「帰るよ。その約束だもん」
「……そうかよ」
彼女は最初一緒に住むのは、三か月だけだと宣言していた。あくまで俺の生活習慣が治るまでだと。何だかんだでてっきりそのまま住むものかと思っていたが、彼女は身支度を済ませて出る準備をしていた。
あまりにもあっさりとしていて、なんだか俺が少し引き留めたくなってしまっていた。
不満そうな顔が出ていたのか、彼女は昔のようにからかうような表情で俺を見上げた。
「もしかして、寂しいの?」
「……だったら悪いかよ」
「なーんて……え?」
いつもの俺ならからかわれるのはムカつくから否定していただろうが、正直もう少し一緒にいてほしかったから、あえて素直に言葉を紡いだ。
けれど、まさか肯定されるなんて思わなかったのだろう。彼女は驚いたように目を開いて俺を見ていた。
その際、初めて彼女の瞳をしっかりと見た気がする。
黄金の、少し珍しい色の瞳。それが目いっぱいに開かれて、俺を映している。
――……ああ、綺麗だな
不意にそう思ってしばらく見惚れていると、急に目の前の彼女がボンっと顔を赤くした。
「え」
その反応に少し驚いていると、彼女は逃げるように俺に背を向けて走った。
「……ッじゃあ、また!」
そう言いながら彼女が走っていく。しかし俺はその姿を見ずにいまだに茫然としていた。
今まであんな表情、見た事がなかった。
いつも見るのは表情のない顔と、からかうように少し笑う顔、それと悲し気に笑う顔、それぐらいだった。
けれど、さっきのは――……
「……嘘だろ」
さっきのは――……
恥ずかしそうに、顔を真っ赤にした恋する女性の顔だった。
俺は口元を手で覆った。
きっと彼女と同じように顔を赤くしていたはずだったから。
初めて、彼女を女性として意識した瞬間だった。
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