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一か月後
それから何度か俺は「付き合おう」と言ってみた。しかし彼女の答えは一向に変わらなかった。
「……なんで断るんだよ」
俺の部屋のソファで雑誌を読んでいる彼女を見つめながら、俺は彼女に問いただしてみた。すると彼女はおかしそうにふっと笑みをこぼした。
「まるでモテ男が言いそうなセリフだね」
「ちげぇよ! お、お前あの時言ってただろうが! 昔と変わらないって!」
からかわれて少しかっとした。しかし本当になぜ断るのかわからなかった。確かに彼女は言ったはずだ。今も昔も気持ちは変わらないと。それは高校のとき告白してくれたあの気持ちと変わらないということではないのか。そう思って聞くと、彼女はふうっと溜息をこぼしながら雑誌を閉じ、隣にいる俺に目を向けた。
「今もそうだよ。今も昔も私の気持ちは変わらない。私は嘘はつかないからね」
「だったら……ッ!」
「けど、違うでしょ」
彼女は力強い言葉で、俺の言葉を遮った。
それに俺は思わず口を閉ざす。真剣な瞳が俺をまっすぐに射抜いた。
「きっと私の想いと、お前とじゃ違うもの」
『違う』
その言葉にズンっと心に重い何かがのしかかったように感じた。
彼女は淡々に、ゆっくり、子どもに悟すように俺に話しかけた。
「私、君が好きよ。ずっと好きだった。けど君は違うでしょ? 私を好きなんかじゃない。ただ、君が辛いときそばにいたのが私だっただけ。それで、ただ一緒にいたいって思ってくれているだけ。そんなの友達でもいいじゃない」
「……ッ」
違う、違う。そうじゃない。
確かに辛いとき、そばにいてくれたのがきっかけだった。
けれど、それだけじゃない。
今までずっとそばにいてくれて、笑って、支えてくれて、あんなみっともない俺でも見捨てないでそばにいてくれた。
友達でいたいんじゃない。誰にも渡したくないんだ。
俺以外の隣で笑って欲しくない。幸せになって欲しくない。
俺のために、笑って欲しい。俺のそばだから笑ってくれるようになってほしい。
幸せだと言って欲しい。今度は、俺が彼女を支えてあげたい。守ってあげたい。
他の誰でもない、俺のそばにいてほしいんだ。
これは絶対に友達に想う事じゃない。それはわかってるんだ。
どうしたら伝わるんだ。
『私、君が好きよ』
そう、さっき言った彼女の言葉を思い出した。
「あ……」
「……?」
少し声をあげた俺に彼女は首を傾げていた。
しかし、俺はそんな彼女の反応を気にしていられなかった。
だって最も伝えなければいけない言葉があることに、気づいたから。
ああそうだ。俺は彼女にまだ伝えていなかった。
「好きだ」
俺はじっと彼女の瞳を見て、言った。
確かに、言った。
付き合おうとか、そんな曖昧な言葉ではなく。
俺の気持ちを、はっきりと、彼女に伝えた。
すると、彼女は一瞬何を言われたのかわからなかったのか、ぽかんとしたように口を開いていた。するとしばらくしてボンっと顔を一気に赤く染めて、慌てた。
「……えぇ⁉ え、いや……ええええ⁉ な、何言ってるの! 冗談でも、言っていい事と、悪いことがあって……! え、えええええええ⁉」
彼女は声をあげて混乱していた。彼女のこんな姿初めて見た。いつもどこか澄ましていて表情があまり変わらなくて、俺をからかう時にしかちゃんと笑わないくせに。今は顔を真っ赤に染めて慌てふためいて、恥ずかしそうに頬に手を当てていた。
その姿に思わず可愛いと思った。さっきまでしっかり目を合わせていたのに、今では恥ずかしがって顔を逸らしている。俺は無理やり顔を向かせるように彼女の顔を挟んで俺の方に向けた。
「冗談じゃねぇよ。俺が冗談でこんなこと言わないってお前ならわかるだろ」
至近距離で目が合った彼女は、さらに顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせながら、俺を引きはがそうとした。
「ち、近い近い! な、なに、なんで急に⁉」
「急じゃねぇよ。好きだって言ってんだろ。馬鹿が」
「ええ⁉ 君頭大丈夫⁉ 私、あの子じゃないよ⁉」
「わかってんだよ。もう、いいだろ。いいからさっさと俺を受け入れろ」
「え、ちょッ……んッ」
無理やり、強引に、俺は彼女にキスをした。最初は抵抗していた彼女も徐々に力を失くし、最後は俺のされるがままになっていた。
キスをした後、彼女は頭を沸騰させてそのまま気絶した。なんだかこんなに抜けてる彼女を初めて見て少しうれしくなった。俺であの彼女が翻弄されていると思うと堪らない。俺は気を失った彼女を横抱きしてベッドに運び込んだ。そしてそのまま隣で俺も寝転んだ。
朝起きた時、どんな反応をするのか、楽しみだ。
そう思い、笑みを浮かべながら目を閉じた。
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