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「え? 今なんて?」
「……あなたの旦那様が、事故でお亡くなりになりました。ひき逃げで……」
「……」
突然家に警察が来た。少し驚いたけれど、警察が来るんだから大事だろうと思って扉を開いた。しかしそこには、悲痛な面持ちの青い制服を着た警察官がいて、一瞬で嫌な予感を彷彿とさせた。
あの人が、死んだ
今日は結婚記念になるはずだった。結婚式はしなかったけれど、ちょっと奮発してあの人の好きなものを作った。シチューは野菜は大きいのが少し苦手だったから細かく切って、ハンバーグが好きだったからあの人のために少し大きめのハンバーグを用意して、デミグラスソースは手作りで隠し味なんかを入れて、驚かせたくて。それでちょっと高めのワインなんか買ってきて、まるでレストラン気分を味合わおうって張り切って。それで、それで――……
茫然としていると警察の人が、同情するようにポケットからある物が取り出された。
「遺留品に、これが」
受け取ったそれはひしゃげた箱だった。少し開けにくかったけれど、力いっぱい蓋を開けて中を覗いた。
「指輪……?」
そこには二つの指輪が並んでいて、その一つはとても歪に歪んでいた。
ああ、きっと今日が結婚記念日になるから、私に驚かせようと買ったのだ。
警察の人は私にそれだけ渡すと、静かに玄関から出ていった。
一人残された私はその場にへたり込んで口元を押さえた。
「……ッふぅ……ぅ」
初めて好きだと言ってくれた時、あの時、本当に嬉しかった。舞い上がった。おかしくなるくらい。嬉しかった。だって好きになってくれることなんてないと思っていたから。
悲しくて、寂しくて、仕方がな――……
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