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半年前に亡くなった婆ちゃんは、ずっと腰が痛いと言っていた。50年以上も美容師として立ち仕事を続けた代償だ。長いあいだ整形外科に行って、湿布をもらっていた。でも使えきれないまま、婆ちゃんは最期を迎えた。
かつては婆ちゃんが寝ていた、今は仏壇が置いてある部屋から、父親が湿布を持ってきた。寝転がる僕の衣服をベロンとめくり、丸出しになった尻と背中に湿布を貼ろうとする。
「どのあたりだ」
「ケツのチョイ上」
「チョイ上って言われたってわかんねえぞ。この辺か」
「痛え痛え触るなって」
すったもんだの末に、僕の腰には2枚の湿布が縦並びで貼られた。ひと仕事を終えた父親は非常に満足した表情で、『あとは寝とけば治る』と言い残して部屋を出ていった。
部屋は静かになった。寝返りすら打てずにじっとしているしかないので、物音ひとつ立たない。エアコンの送風音だけが部屋に響いている。
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