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まさか真正面のピッチャーフライを捕っただけでぎっくり腰になるとは思わなかった。地面につまづいて、ちょっとだけ不安定な態勢になっただけなんだけど。
やらかした瞬間は痛かったけど、すぐに波は引いた。だから大丈夫と思って、試合の最後まで出た。でも、地獄は野球が終わったあとに待っていた。
試合が終わって帰ろうと歩いていたが、次第に腰を真っ直ぐ立てられなくなった。歩くのだって精いっぱい。階段なんてもってのほか。少しでも油断したら腰を針でかき回されるような衝撃が襲ってきて、その波が去るまで立っていることができなくなる。
運悪く、その日の試合会場は電車を乗り継いだ先。悶絶しながら電車に乗り込み、乗換駅でしゃがみ込み、最寄り駅で悲鳴を上げた。最後は、声を聴いて駆けつけた駅員さんにカバンを持ってもらい、歩いて10分の道のりをタクシーで帰った。
ようやくたどり着いた自宅。起きてゲームをしていた姉に腰をやったことを伝え、そのまま寝床に横になった。風呂なんか入ってられない。野球をしたまんま、泥だらけのままである。
騒ぎを聞きつけた父親が様子を観に来た。布団に横になっている僕の姿を、すっかり酒が入った赤ら顔で見ていた。こっちが脂汗を流してうめいているというのに、父親は呑気な声で言った。
「婆ちゃんが遺した湿布があっから、貼っとけぃ」
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