コクチュウセキチク

7/10

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 水の流れる音とカッコン、カッコンと音が聞こえる。障子と呼ばれる戸を引くと、その先には。 「それは鹿威しよ。」 「シシオドシ? シシオドシは初めて聞くな。竹できているのかな?」 「そう、それは竹でできているの。」  あ、タケ。 「タケトリモノガタリ? きみは、カグヤヒメ?」 「もちろん本物のかぐや姫じゃあないけれどね。わたしそんなような存在なの。月へのお迎えを待っているのよ。」 「きみは月の生まれ?」 「うーん、わたしのオリジナルは月出身だね。」 「オリジナル?」  ぼくがそう聞き返すと、彼女は少し顔をしかめたけれど、すぐに笑顔に戻ってこう続けた。 「ううん、こっちの話だから気にしないで。月出身よ。あら、そういえばまだ自己紹介していなかったね。わたしの名前はミト。」 「カグヤじゃないんだね。ぼくてっきりそうだと。」 「あはは、カグヤじゃなくてごめんね。あなたの名前を教えてくれる?」 「ぼくはセイカ。」 「セイカ、いい名前だね。」 「ありがとう。母さんがオリンピックの聖火から名前をとってつけてくれたんだ。平和の象徴だって。ああ、ごめん、きみの名前もすごくステキだね。」  ぼくが慌ててそう取り繕うと、彼女はますます満面の笑みを浮かべた。 「あはは、大丈夫だよ。ほんとあなたは平和の象徴そのものだね。その平和の象徴を火星に早く帰さなきゃいけないわね。火星の大統領エイブラハムに怒られちゃう。」  そう言うと彼女は、何やら通信機のようなものを手に持ち、マイクに向かって伝令した。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加