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水の流れる音とカッコン、カッコンと音が聞こえる。障子と呼ばれる戸を引くと、その先には。
「それは鹿威しよ。」
「シシオドシ? シシオドシは初めて聞くな。竹できているのかな?」
「そう、それは竹でできているの。」
あ、タケ。
「タケトリモノガタリ? きみは、カグヤヒメ?」
「もちろん本物のかぐや姫じゃあないけれどね。わたしそんなような存在なの。月へのお迎えを待っているのよ。」
「きみは月の生まれ?」
「うーん、わたしのオリジナルは月出身だね。」
「オリジナル?」
ぼくがそう聞き返すと、彼女は少し顔をしかめたけれど、すぐに笑顔に戻ってこう続けた。
「ううん、こっちの話だから気にしないで。月出身よ。あら、そういえばまだ自己紹介していなかったね。わたしの名前はミト。」
「カグヤじゃないんだね。ぼくてっきりそうだと。」
「あはは、カグヤじゃなくてごめんね。あなたの名前を教えてくれる?」
「ぼくはセイカ。」
「セイカ、いい名前だね。」
「ありがとう。母さんがオリンピックの聖火から名前をとってつけてくれたんだ。平和の象徴だって。ああ、ごめん、きみの名前もすごくステキだね。」
ぼくが慌ててそう取り繕うと、彼女はますます満面の笑みを浮かべた。
「あはは、大丈夫だよ。ほんとあなたは平和の象徴そのものだね。その平和の象徴を火星に早く帰さなきゃいけないわね。火星の大統領エイブラハムに怒られちゃう。」
そう言うと彼女は、何やら通信機のようなものを手に持ち、マイクに向かって伝令した。
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