貴方が婚約者とは

5/6
44人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
(初めて彼女の存在に気づいたのは、古文書と冊子本の目録を作っていたときのこと)  ――テオクレイトスは詩人ではなく、歴史家の分類の方が良いのではないかしら。そのメモ、学問分野ごとに著者名を年代順に並べているみたいですけど、テオクレイトスは「年代史」の編纂にもかなり関わっているはず。わたくし、最近読んだばかりなの。  たまたま資料を積んで閲覧机でメモを取っていたら、いつの間にか横で本を読んでいて、手元をのぞきこんで口出しをしてきた。  言ってから大いに後悔したように「ごめんなさい。わたくしはいつも余計なことをしてしまうの。ひとの作業に横から口を挟むなんて、はしたないことを」と言って足早に立ち去ってしまった。あまりに素早く、声をかける間もなく。  それから、図書館に来ていないか、いつもその姿を探すようになった。 (今日も、いた)  見つけると嬉しくなる。話しかけようとまでは思わなかった。読書の邪魔をしてはいけないと。  それが、閉館間際まで粘っているのを見かけたある日、つい声をかけてしまったのだ。「その本、読み終わりたいなら貸し出しに手を貸そう。そのくらいの権限はあるから」と。  驚いて見上げてきたその顔を見たら、それまで話さなかったのを全力で後悔した。  ずっと、彼女と話してみたいと思っていたことに気づいた。  話してみたら、それだけでは済まなくなってしまって、より多くを望んでしまうようになった。  * * *
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!