召喚獣と一緒。

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 考えてみればサリューってば王子さまじゃん。将来の有望株だろ。俺みたいな平凡相手じゃなくたって引く手数多だったんだろうし、なんか悪いことした気がする。 「なに考えてるか大体予想つくけど、たぶんそれ違うから」  なんだと。俺の考えを読み取るとは、さすが召喚獣さま。 「それくらい解るわ。あの殿下に四六時中纏いつかれて、普通に対応できるお前は十分非凡だよ」  ちょっと、『あの殿下』って、どういう意味なんだ。 「あの腹黒猫かぶりストーカー殿下」 「腹黒? サリューは天使みたいに優しいやつだぞ」  ちょっと強引なとこは確かにあるけど。ストーカーってのは、たまに少し思うかもだけど。  いつもニコニコしてるし、驚くくらい綺麗だし。俺の言うことなんでも聞いてくれるし、優しいし。完璧超人で、むしろ聖人と呼ばれてもいいんじゃないだろうか。  あ、契約してくれってのと、家に帰りたいっての、なんだかんだで躱されるのは困ってるけど。きっとなんかふか~い事情があるんだろう。 「いや、それお前の前だけだから」  達弘は目を細めて、胡乱な眼差しをこちらに向けてくる。そうかなぁ。サリューって、随分周りから誤解されてるみたいだ。 「大体あの王子さまって――」 「なんの話をしてるんだい?」  女の子なら間違いなく惚れそうなほど甘い声が耳元で聞こえた。同時に俺の背後から抱き込むように腕が回され、後ろにもたれかかるように抱き寄せられる。温かい体温に、俺の心臓がひとつ、跳ねた。 「サリュー?」  見上げると、うっとり見惚れそうなくらい整った綺麗な顔。なんかお星さまでも飛んでるんじゃないんだろうか。吸い込まれそうなほど澄んだ、ブルーサファイアの瞳。プラチナブロンドの髪が午後の日差しを反射して、キラキラ眩しいくらいだ。 「お待たせ、ヒイラギ。僕の名前が出てたみたいだけど」  どうかしたのかなと、いつも通りの柔らかな声。うん、やっぱ達弘誤解してるよな。そう思って友人の方に向き直ると、三歩ぐらい距離が離れている。 「さ、サリュー殿下……」  たらりと、達弘の額から零れる汗。酷く焦った表情が浮かんでいる。こいつがこんな顔するなんて珍しい、どうしたんだろう。 「え~っと、柊、俺用事思い出したからまたな!」  そう言い捨てるなり、達弘は踵を返して慌ただしく駆け去った。よっぽど急な用事みたいだ。 「随分早かったんだな」  二人きり。なんとく居心地の悪さを感じて彼の腕の中で身じろいだ。気のせいだと思うんだけど、心なしか周りの温度が低いような。首を捻って、サリューの方へ向いた。いつもなら、仕事が終わるまでもう少しかかっていたと思ったんだけど。 「あ、うん。なんか虫がわいてるって報告があったから」 「虫?」  頭の中に浮かんだのは、ぷんぷん飛び回る羽虫。それのために仕事切り上げてきたのか。仕事切り上げるって、よほどだよな。考えてみたらここ異世界だし、虫がモンスター化してても不思議じゃないか。 「うん、でももう追い払ったから平気」 「そっか、それはなにより」  そっちへ行かなくていいのかと思っていたら、俺を安心させるように笑顔を見せた。サリューもなかなか大変なんだな。前に執務室にお邪魔したときも、大量の書類の山に埋れてたし、今も俺なんかと一緒にいていいんだろうか。 「今日の仕事は終わり。ただでさえヒイラギとの時間が少ないのに、これ以上減るなんて嫌だ」
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