召喚獣と一緒。

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 それって、無意識に嫉妬したってことだよなぁ。そう思うと、なぜか嬉しい自分がいて複雑な気分だ。だってなぁ、写真だからいいけど、生き物だったらえらいことだぞ。 「こんなじゃ、俺の家族紹介できないじゃん」  さすがに家族を砕かれると困る。いや、困るどころじゃない。ぽそりと呟いた俺の台詞が聞こえたのか、サリューが弾かれたように顔を上げて、俺の方を見た。 「ヒイラギのご家族にそんなことしないよ!」 「ホントか?」 「たぶん!」  力強く返る返答に、俺は当分の間面会は無理そうだと思った。まぁ、そもそも現状帰れないんだけど。 「帰れるよ?」 「なんですと!?」 「界渡りはそんな難しいものじゃないし、界の位置さえわかれば連れて行ってあげられるよ。ヒイラギを召喚したときの、異界の扉は覚えてるし、兄の召喚獣はヒイラギの知り合いだろ。痕跡を辿ればそんなに難しくない」  至極あっさりとそう告げられて、へろへろと身体の力が抜けた。うん、さすが王国史上希代の能力の持ち主さまです。  今までの俺の心の葛藤は一体……。  いや、帰れるんだったらまぁいいや。 「そいや、サリューの家族って、どんな人たちなんだ?」  なんとか気を取り直すと、俺は前から疑問に思っていたことを聞いてみた。結婚までしてるのに、サリューの家族にまだ一人も会ったことがない。確か第三王子だから、少なくとも上に二人兄がいるんだよな。 「会いたい?」 「え? う~ん、サリューの両親には、ご挨拶くらいはしたいかな」 「ホント!?」  俺がそう言うと、サリューはとても嬉しそうな表情を浮かべた。あれ? 気のせいだろうか、すごく嫌な予感がする。 「実は二人共、ヒイラギにとても会いたがってたんだ。結婚式もまだだし、母上がヒイラギのために渾身のドレスを着せたいって言っててね」 「へ?」  いや、今なにか不穏な単語が聞こえたような。気のせい、気のせいだよな。 「じゃ、早速今から!」  戸惑う俺の心を置き去りに、サリューは満面の笑みを浮かべると、俺に右手を伸ばして来た。腕に着けた結婚腕輪が淡い光を帯びると、それに呼応するように俺の手のリングも輝き始める。互いから伸びた光が、まるで鎖のように繋がった。そう、まるで―― 「ちょっ、手錠!?」  俺とサリューをがっちり結ぶ腕輪と腕輪。魂レベルで繋がってるそれは、もちろん外れることはなく。 「嬉しいな。ヒイラギは奥ゆかしいから、聞いてくれるのをずっと待ってたんだ」  それ、俺が墓穴を掘るのを待っていたとしか聞こえないんだけど! 気分はさながら今からご両親に挨拶に行く恋人たちというよりも、今から監獄に連行される犯罪者のような気がしてしょうがないし! 「ヒイラギの気が変わらない内に行こう」  いや、既に変わったからっ! もうすっごく行きたくない気持ちで一杯だからっ! というかそれ察して逃げれないように繋いだんじゃないんだろうか。うぅ、でもサリューはそんなことするようなやつじゃないし。  さっきまでの垂れ耳ワンコはどこへやら。サリューは上機嫌で俺をドナドナしながら温室の扉を開けた。既に雨は過ぎ去り、真っ青な空には大きな虹が掛かっている。 「ヒイラギ大好き。愛してるよ」  ちゅっと、音を立てて俺の頬にキスが落ちた。綺麗な虹を背に、煌めくプラチナブロンドの髪。空に負けないくらいに綺麗だなと、ただ思う。 「サリュー」  結局俺、こいつに弱いんだよなぁと、少し可笑しくなった。好きなんだから、仕方ない。俺は腕輪で繋がったサリューの手を取り、ぎゅっと握り締めた。手錠なんかなくたって、こうすれば直ぐに繋がれるのにさ。  小首を傾げて俺を見つめるサリューに、俺もと笑いかける。そういえばまだ、彼に言ってなかったや。たくさん言ってもらってるのに、俺からはなかなか言えない、たった一言。 「愛してる」
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