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召喚獣と一緒。
「消えろ」
伸ばした腕の先、重なり合った手の間から生まれる光の玉。言葉と共に打ち出されたそれは、手の平から離れるや否や、ぽふんっと音を立てて消えた。
「うぅ、また失敗したぁ……」
俺はがっくりと膝から崩れ落ちると、地面に両手をついてうな垂れた。初夏の日差しの下、ひゅるりらと舞う一陣の風が、俺の頬を撫でると中庭を吹き抜ける。
うん、消えろとは言ったよ。でも消えるのはそれじゃないんだ、それじゃなくてね、あそこにある標的でね。うぅ、良いけどさ。
えっと、俺の名前は内海柊。ある日気づいたら異世界に召喚されてました。なんでもこの世界の力ある者は、召喚獣という自らの守護霊獣を、異世界から召喚できるのだそうだ。で、俺がその召喚獣ってわけ。
俺を召喚したのはサリュー=フィリス。この世界でも大きな国の第三王子サマ。なんでも王国史上希代の能力者らしい。すごいやつなんだ。なのに喚び出された俺ってば、悲しいくらいなんもできないの。たまにサリューに料理作ってあげる程度。
「さすが僕の奥さん、すごく美味しいよ」
うん、今変な心の声が聞こえたね。スルー推奨していいですか。いや、そういうわけにもいかないか。
未だ以ってなんでそうなったのかさっぱりなんだけど、俺ってばサリューの奥さんらしい。腕に結婚指輪ならぬ結婚腕輪を嵌めて、誓いの言葉を言ったというか、言わされたのはつい先日。素直に言っちゃった俺のバカバカっ。
そりゃ、俺もサリューのこと嫌いじゃないけど……すごく優しいし、綺麗だし、なんかギュッて抱き締められると、良い匂いがしてドキドキするし。
うわわ、俺って乙女か。
「なに赤くなってんの? 柊」
「うぎゃわわっ!? ――って、達弘か……、脅かすなよ」
顔を覗き込まれて思わず仰け反った。嫌味なほどイケメンなのは、俺の友人、達弘だ。俺と同じく召喚獣として、この世界に召喚されている。
ただ、俺と違うのはちゃんと守護契約を結んでいるので、召喚獣の能力をフルに発揮できること。ふん、羨ましくなんかないやい。……嘘です、羨ましいです。
「なにやってんだ?」
達弘は怪訝そうに辺りに首を巡らすと、足元に転がった本を取り上げた。
「言霊魔術?」
「あれ、達弘読めるのか?」
「失礼な。契約結んで魔力解放されてる召喚獣さまだぞ」
えっへんと、胸を張る召喚獣さまに、へいへいと手を振ってやる。どうせ俺は契約してませんよだ。
召喚獣は契約しないと能力を発揮できない。なのにサリューってば、俺と契約してくんないの。理由は俺を危ない目に遭わせたくないかららしいんだけど、俺だってサリューの役に立ちたいんだけどな。
「いや、それもあるだろうけど、単にお前を元の世界に戻したくないだけなんじゃ」
達弘がそう突っ込みを入れてきた。うん、たぶんね。契約した召喚獣は能力が発揮できるようになるだけでなく、自分の世界へ帰れるようになる。
どこが気に入ったのかさっぱりなんだけど、サリューは俺にベタ惚れらしい。
仕事とか公務のとき以外、終始俺にべったりで、どこに行くにも手放してくんないの。今はちょうど公務の時間。俺の唯一の自由時間だ。
実際息が詰まるんだけど、最近は割りと慣れた。でっかいペットだと思えばそれなりに可愛いもんだ。
まぁ、ペットはあんなコトやそんなコトはしてこないけどさっ!
ふぬぬと口ごもる俺の頭をぽふぽふすると、達弘は胸ポケットから出してきたものを俺に押し付けてきた。
「頼まれてたやつ」
「おおっ、ありがと!」
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