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初め、自分がどうしてここに居るのか分からなかった。頭がぼーっとして思考が不明瞭。
ぼんやりとした意識が徐々にはっきりとしてきて、ようやく私は辺りを見回す。
夜。ぱらぱらとアスファルトを叩く雨。車通りの多い交差点。滞る車線。ある一点を中心に遠巻きに円を作り、ざわめく人集り。その中で横たわる見慣れた中学生の女の子は、ぴくりとも動かない。
瞬間、理解した。
――私は死んだのか。
どうやって死んだのかは覚えていないけど、横断歩道と近くに停車するフロント部分が少し凹んだ車から推測するに、どうやらその車に轢かれたらしい。どうせ私が赤信号に気付かず渡ろうとしたんだろう。間の抜けた私にはよくある事。車に轢かれたのは初めてだけど。
あたりの人達は事故現場で立ち尽くす不自然な私を、誰一人として見ていない。みんな倒れているる私に注目し、哀れみや同情を投げかけている。どうやら、こちらの私の姿は見えていないらしい。
ふと、野次馬の中でただ一人、こちらをじっと見ている少女がいた。どこを見ているんだろうとキョロキョロしたけど、目が合うと少女は目を細めてふっと微笑んだので、どうやら私が見えているようだ。
少女が野次馬を抜けてこちらに歩み寄ってくる。そんな目立つ行動をしているのに、少女もまた誰からも見向きもされない。幽霊が見える霊感少女かと思ったが、お仲間なのかもしれない。
私より身長の低い、外見からは小学生にも見える可愛らしい顔をした少女。何故か普段着にするには珍妙な服装――ヒラヒラとしたレースが至る所についた、西洋のメイドを模したような黒と白のゴシックロリータなドレス――をしている。アニメのイベント帰りなんだろうか。
「こんばんは」
「こ、こんばんは」
スカートの端を軽く持ち上げて、物語の中のお嬢様のように優雅に挨拶をされたので、私も釣られて行儀よく頭を下げる。
「初めまして。山家葉月さん。お迎えよ。今日は二人の出会いに相応しい夜……ってことは無いわね」
言いながら少女は忌々しげに空を見上げた。真っ黒な夜空からは絶え間なく雨粒がポツポツと降り続いている。とてもじゃないが、気分のいい夜とはいえない。
どうして私の名前を知っているんだろう。
「あ、あの……っ」
「知ってる? 今宵は満月」
疑問を口に出そうとしたけど、少女の強引な口調に遮られてしまい、私は口を噤んだ。
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