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「八月だからスタージョンムーン。チョウザメ月。雨さえ降ってなければさぞかし綺麗な満月が見えたでしょうね」
ふふふっと意味ありげに微笑む少女に、私はドキッとしてしまう。幼い少女らしからぬ妖しい笑み。
「ま、夜でも明るすぎる都会から見える月なんて、それほどでもないだろうけど」
言って、少女は呆れ気味に肩を竦めた。
「あの……」
「ああ、わたしはサリィ。。揺蕩う魂をお迎えし、ご案内する者」
お迎え。ご案内。ということは少女は私をあの世に連れて行ってくれる案内人なのだろうか。
「死神ってことですか?」
「ま、そう呼ばれることもあるわね。天使。悪魔。仏様。神様。亡霊。
時や場所によって色々呼ばれるわ。でも、一番酷かったのは奪衣婆よ。どこをどう見たら私がお婆さんに見えるのよ! 三途の川でもないし!」
澄ました顔をしたかと思ったら、怒って文句を言う。コロコロと忙しく表情を変える少女を、私は感情が追いつかずに呆然と見ていた。
「……いやに落ち着いてるわね。不慮の事故で死んだのならさ、もっと『まだ死にたくないー』とか『嫌よ。連れてかないでー』とか狼狽えるべきじゃない?」
指摘されてから、自分が事故に遭ったことには驚いているが、死ぬことについてはどこか納得していて、すんなりと受け入れているのに気がついた。
「それとも、実は死にたくて自分から道路に飛び出したとか?」
「ううん。それは違うよ。ただ、なんて言うのかな……」
自ら死にたいとは一度も考えたことは無い。実際、事故に遭う前の私は明日の授業について考えていたくらいだ。
一度、短く息を吐いてから口を開く。
「私、いらない子だから」
「は? どういうことよ?」
眉間に皺を寄せ、訝しげに少女はこちらを見る。
「私、抜けてるから、ノロマだから。ずっと、誰かに迷惑をかけながら生きてきたの」
何をするのも誰よりも遅くて、何も一人で決められない。いつもズルズルと答えを先延ばしにした挙句、誰かに勧められた方を選ぶ。テストは一応平均点より上をとっているが、それも人一倍理解するのに時間がかかっている。
全てにおいて不器用で、他の人が当たり前にしていることが、私には大事のように時間がかかってしまう。生存適応能力といえばいいのか、生きていく上でのIQのようなものが私は人より低いのだ。
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