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そんなボルサックに変化が訪れたのは、ある秋の夜の事だった。
床に就いていた彼の夢に、神の使いが現れたのである。
「ボルサック……ボルサックよ」
「私を呼ぶのはどなたでしょうか?」
「ボルサック、私は神の使いだ」
「なんですって!?」
さすがのボルサックも、声を上ずらせずにはいられなかった。
「神というのは……私の使える神様からのお使いでありますか?」
「いかにも。今日はお前を迎えに来たのだ」
「迎えに? つまり、私は死んだのでしょうか?」
「そうではない。神の言葉を授かるために、一時的に魂だけの存在となるだけだ」
「か……神様からのお言葉?」
「その通りだ。さあ、来るが良い」
「は、はい、行きます。どうすれば……」
ボルサックがそう言った途端、彼は猛烈な浮遊感に包まれた。
そして、気が付くと背に翼を持った美しい人物に手を引かれ、宙を舞っていた。
男の様でもあり、女の様でもあるその人物が、神の使いであることは一目瞭然だった。
「おお……私にもついに神の言葉を聞く日が来たのか……。それも、直接神様と会えるなんて……」
「残念だが、直接神に会えるわけでは無いぞ」
ボルサックの独り言が耳に入ったらしい神の使いは、彼にすかさず釘を刺してきた。
「え、違うのですか? 迎えに来たと言うからてっきり……」
「これは必要に応じてだけの事だ。お前が会うのは代理の者だ。だが、神からの言葉であることに違いはない」
「は、はい……」
落胆しかけた自分の心に、ボルサックは喝を入れた。
神からの言葉を授かるのだ。
それが代理の者であって、何が悪い。
代理というからには、彼の言葉は即ち神からの言葉なのだ。
「一体、どのようなお言葉を授かるのでしょうか……」
「まあ、後でわかる事だが、実は近々魔王が蘇る」
「ええっ!?」
「慌てなくてもいい。同時に勇者も目覚めるのだから」
「という事は、私は勇者の供として、魔王を打ち倒すたびに出るのですか?」
「いや、その候補は別にいる」
そりゃそうだ。
ボルサックは自分の心に語り掛けた。
奇跡の一つも起こせない聖職者が、勇者の供になったところで何の役に立つと言うのだ。
自惚れるなボルサック。
彼は心の中で自分に言い聞かせた。
「お前にはもっと別の大切な使命があるのだ」
「大切な使命? もしかして、魔王を打ち倒すカギとなる武器や防具の守護者ですか?」
「そう言うのはドワーフやエルフのやる事だ」
返す言葉が無かった。
何しろボルサックは短剣一つ使いこなせはしないのだ。
そんな素人がいくら伝説の武器屋防具について語ったところで何の説得力があろう。
思い上がりも甚だしいぞボルサック。
彼は心の中で激しく自分を叱責した。
「しかし、そうなると私は一体何を……」
「それはついてから自分の目で確認するが良い。間もなく到着だ」
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