出発

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出発

「友介さん、憧れのオープンチケットだよ」 「ははは。まさかね、こうなるとは」 1か月後、私たちは早朝の成田空港の蕎麦屋さんにいた。 更新した真新しいパスポートには、私の新しい名前が記してある。 里見里美 「これから私はずっとこの名前と付き合って生きていくんですなあ」 「俺は好きだよ。なりたくてなれる名前じゃない。二人で作った名前」 「ははは。ま、覚悟は決まってます」 インド料理店で友介さんと再会して一週間、私は彼の部屋に泊まり続けた。一週間目にお互いの実家を訪ね、その足で一緒に役所に婚姻届けを出しに行った。 それが、10月13日。 私たちは再び夫婦になった。 夫婦は強靭になって復活したのだった。 前回の結婚生活の二の舞はごめんだった。私たちはすぐさま部屋を探し、引っ越し、新しい生活を構築していった。 そして、今日から、新婚旅行。 ネパールのカトマンズから陸路を辿って、ポカラ、ルンビニ。国境を越えてインドに入り、ベナレス、デリー、ムンバイ、そして、南インド。 一面の四つ葉のクローバーのあるあのビーチまで。 所持しているのは、帰りの便が決まっていない一年もののオープンチケット。 「ね、ね」 「ん?」 友介さんがざるそばをすすりながら顔を上げた。 「こないだ調べたんだ」 「何を?」 「四つ葉のクローバーって、栽培方法を工夫すれば作れる」 「いやいやいやいや。また話がややこしくなるよ」 「だね。でもさ」 「ん?」 「私たちがまた引き合ったきっかけが四つ葉のクローバーなんだよ」 「うん」 「少なくとも四つ葉のクローバーの事を二人で考えているのは、私たちにとって悪いことじゃない」 友介さんが蕎麦の上から箸で何かつまんで私に見せた。 「何?」 「よっく見て」 あ。 四つ葉のカイワレ大根。 「幸先がいいな」 「そうだね」
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