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「さ、召し上がれ」
あの時の話をすると言って呼び出されたのに、来てみたらごはんが用意されていた。その状況に少し呆然としていた吉沢くんも、僕が声をかけると箸をとって小さくあいさつすると、一口食べ、そのあとはびっくりするほどの勢いで次々に平らげていった。
若い子がどれだけ食べるのか分からなかったけど、一応いっぱい作っておいて良かった。
あっという間にごはんがなくなり、おかわりを促すとそれもキレイに食べ、結局三杯を平らげてしまった。
いつもは玲央に合わせて野菜中心のメニューだけど、今日は若い男の子だからとお肉を中心としたメニューにしたけど・・・。
こんなに食べてくれるなんて。
その食べっぷりがうれしい。
自分の料理をこんなにおいしそうに沢山食べてくれて、それだけで心がほこほこする。
食べながら話そうと思ったけどせっかくおいしく食べてくれてるから、僕はそのまま何も訊かず気持ちいいほどの食べっぷりを堪能しながら、僕もごはんを食べることに集中した。そしてようやくお腹がいっぱいになった吉沢くんが箸を置いたところに、僕は食後のコーヒーを置いてあげた。それを見てハッとする吉沢くん。
「すみませんっ。僕、食べるのに夢中になってしまってっ」
今になって自分がここに来た理由を思い出したのか、吉沢くんはあわてて居住まいを正す。
「いいよ。こんなに沢山食べてくれて僕もうれしかったし」
そう言って食卓の食器をとりあえずシンクに持っていき、僕もコーヒーを手に再び座った。
「ごめんね。僕、本当に何も覚えていないんだ。だから、何があったのか教えてもらっていいかな?」
その僕の言葉に吉沢くんは顔を強ばらせる。
やっぱり、僕が襲ってしまったのだろうか・・・?
彼の緊張が伝わって来たためか、それとも自分の罪を突きつけられそうにっているからか、僕の背中にも冷たい汗が流れる。
そして、一瞬で張り詰めてしまった空気のなか、吉沢くんがやっと口を開いた。
「あの日僕は友人の家に行った帰りだったんです」
吉沢くんはそう言って、硬い表情のまま話し始めた。
病欠した大学の友だちにノートを届けに行った帰り道、慣れない夜の町にすっかり道に迷ってしまった吉沢くんは、たまたま通り掛かった僕に道を聞こうと近づいた。ところが僕は声をかけられた途端に急に発情してしまった。
発情したオメガをこんな夜の町中に置いておけないと、僕を抱えて家に送り届けることにした吉沢くんは、そのまま発情にあてられてことに及んでしまったらしい。
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