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「すみませんっ。本当はあなたを部屋に送り届けたらすぐに帰るべきだったんです。その時にはまだ僕には理性が残っていて、十分帰ることも出来た。だけど、あなたを初めて見た時からあなたの香りが僕の中に燻っていて、どうしてもこのまま帰りたくないと思ってしまったんです。あなたが酔った上に発情していて、ほとんど何も分かっていないと知っていながら、僕は・・・」
酔った上に発情・・・。
やっぱり美香ちゃんとの飲み会の日だったんだ。あの時、朝起きるまでの記憶の無い間に僕は吉沢くんと・・・。
「あなたは僕を受け入れ、求めてくれた。でもそれは、発情したオメガが本能でアルファを求めているだけだって分かってます。分かってたけど、僕は自分が止められなくて、夢中になってしまったんです」
避妊も忘れてひたすら欲望を打ち込んで、やっと我に返ったときは僕の家に着いてから一時間も経っていた。その間ずっと身体を繋げっぱなしだった吉沢くんがようやく身体を離した時、僕の発情は治まっていたらしい。そしてやっぱり時計を見た僕は言ったそうだ。
『大変。もうすぐ終電来ちゃうよ。駅だよね、駅はここから・・・』
と急に冷静に話し始め、今すぐ行ったら間に合うからと普通に送り出してくれたと言う。
「我に返って、僕はなんてことをしてしまったんだと焦ってたんですけど、妙に冷静にあなたにそう言われて、いつの間にか、自分のしてしまった罪の意識への焦りが終電に乗り遅れてしまうかもしれないという焦りに変わってしまっていて、そしてそのまま駅に向かってしまったんです」
僕は吉沢くんの身支度を手伝いながら、早くしないと間に合わないと支度を急がせ、そしてそのままドアから帰したという。
「その時あなたは『またね』と笑って見送ってくれたのに、ギリギリ間に合った電車の中で気づいたんです。僕はあなたの名前も連絡先も聞かず、また自分も何も言わないまま帰ってきてしまったと」
次の朝、すぐにまた僕の家に行こうと同じ駅まで来たけれど、元々迷ってたどり着いた上に、帰りは焦って言われたままに走ってきてしまったためにほとんど道順を覚えていなかったらしい。
「友人の家は分かるのに、どうしてもあなたの家は分からなくて、なんども探しに行ったのに結局分からなかったんです」
そう言うと、テーブルに置いた手をぎゅっと握った。
「あなたの香りもあなたの感触もこんなに覚えているのに、なんで僕はあなたの家を覚えていないんだろう。これじゃあ僕は、発情したオメガを無理やり犯した悪いアルファと同じじゃないかって、僕は自分が許せなかった」
握った手に更に力を込める。
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