魔法使いになりそこなったお話

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流れる涙をそのままにじっと僕を見つめるその真剣な瞳に、僕の心が揺さぶられる。でも、僕は・・・。 「吉沢くんは僕の歳知ってる?僕は今年で33になるんだよ」 そう言って握られていた手を引く。 「よく考えてみて。君はまるで物語の主人公のように、偶然出会ったオメガと一夜を共にし、その人の名前も素性も分からないまま別れてしまった。だから、その人に恋をしたかように勘違いをしているだけだ」 本当は吉沢くんに名前を呼ばれた時から、僕の心と身体は彼を受け入れている。でも頭だけが現実を冷静に見ていた。僕は彼のパートナーになるには歳を取りすぎている。 「僕を見てよ。子持ちの冴えないおじさんだ。君は将来有望なアルファだろ?今年の若手ナンバーワンと言われているのは君のことだよね?こんなおじさんじゃなくても、君には若くてキレイなオメガがどこかに必ずいるはずだよ」 叶わなかった出来事は、時に人をそれのみに執着させ、会えない時間が長いほど、その相手を理想化してしまう。 僕は彼の中で、きっと若くてキレイなオメガなのだ。 僕はなんでもないように、けれど極力感情を乗せずにそう言った。なのに吉沢くんは、ばんっとテーブルを叩いてこちらに回って来ると、徐に僕を抱きしめた。 「確かに必死になって探したあなたが見つからなくて、あれは夢だったんじゃないかと思いました。だから理想を当てはめていたのかもしれない。だけど、さっきあなたを見つけて、そして一緒にごはんを食べながら過ごすうちに、僕はどんどんあなたに惹かれていった。あなたは冴えない子持ちのおじさんなんかじゃありません。とても綺麗です。それに子持ちって、その子は僕の子じゃないですかっ」 そう言って腕に力をこめられる。その彼の腕の中で彼の早い鼓動を聞きながら、アルファの支配力に包まれた僕の心と身体は歓喜する。だけど辛うじて残る理性で、僕は彼の胸を押し返した。 その抵抗に彼は怒ったように僕を乱暴に抱えあげ、隣のリビングのラグの上に転がした。 玲央がまだ小さいからと柔らかいラグが敷かれているその上に仰向けに転がされた僕に、彼は覆いかぶさる。 「あの時のことを覚えていないと言うならば、思い出させてあげます。そして、僕の思いが勘違いでないことを分からせます」 そう言って僕を押さえつけて激しく唇を合わせる。 絶対に抗うことを許さない程の強い力が僕を動けなくし、その僕の口内を彼の舌が激しく蠢き、その舌使いと強い支配力で僕を絞りつける。 記憶の中では初めてのキス。その初めての快感に頭が痺れ始める。
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