魔法使いになりそこなったお話

18/20
前へ
/20ページ
次へ
「次からはちゃんと加減してね」 その言葉に少しだけ顔を上げた吉沢くん。 「・・・次もしていいんですか?」 その顔が玲央と同じで微笑ましい。あ、玲央が同じなのか。 「いいよ」 そう言ってあげると、ぱぁっと顔が明るくなって僕に抱きついてきた。 「・・・え?いま?」 びっくりして見上げた吉沢くんはにっこり笑った。 「僕、朝するの好きです」 あれ? すっかりペースを取り戻した吉沢くんに、僕のペースは乱され、結局朝から激しく運動することになった。 目が覚めたのが早い時間で良かった・・・。 満足気な吉沢くんは僕を抱きしめながら髪に小さなキスを繰り返している。そんな彼に僕は声をかける。 「吉沢くん、シャワーしておいで。もう支度しないと間に合わなくなるよ」 僕は今日会社に行くのは諦めたけど、吉沢くんは行かなきゃね。 渋る吉沢くんをバスルームに向かわせるも、着替えどうしよう、と思っていたら吉沢くんはちゃっかり昨夜のうちにワイシャツと下着と靴下を洗濯していた。 すっかり身支度を整えてさっぱりスッキリした吉沢くんは、とても爽やかイケメンだった。 改めてアルファであることを実感する。そんな彼に僕はスマホを渡した。実は美香ちゃんにメッセージを送りたいのに手が震えて上手く打てなかったのだ。だから代わりに打ってもらおうと思って。 玲央を預かってもらったお礼と、今日は会社を休むから保育園じゃなくてうちに連れてきてもらいたい旨を、僕が言うまま打ってもらった。するとすぐに返信が来る。 『お迎えも行ってあげるから玲央は保育園に連れていくわ。なんで会社を休むかは帰ったらじっくり聞くからね。今日は大人しく寝てなさい』 そして『ムヒヒ』と笑うネコのスタンプ。 そのネコのちょっといやらしい目付きに、何があったのかお見通しらしい美香ちゃんに顔が熱くなる。 なんで分かっちゃったんだろう? 僕はとりあえずそれには触れず、感謝のスタンプを送ってもらってメッセージを終了した。 ありがとう、と言ってスマホを返してもらうと、吉沢くんの香りが少し変わったことに気づいた。 「仲・・・いいんですね」 そういう声にも引っ掛かりを覚える。 なんか怒ってる? さっきまでの明るい雰囲気が少し・・・というか大分陰っている。 「高校の時からの親友だから・・・どうしたの?」 「親友・・・ですか?」 「うん」 「・・・恋人じゃなくて?」 暗い顔でそう言う吉沢くんはからは重たい気配が流れてくる。 恋人? 誰が? 「美香ちゃん?恋人な訳ないよ。もし恋人だったら吉沢くんが初めてな訳ないでしょ?」 その言葉に彼はぱっと僕を見る。 「初めて?」 「僕は吉沢くんしか知らないよ。玲央ができた時が本当は初めてだけど、覚えていないから僕にとっては昨日が初めて。どっちの初めても吉沢くんだったね」 ふふっと笑ったら、がばっと抱きしめられてしまった。 スーツがシワになっちゃう、と焦る僕にお構い無しにぎゅうぎゅう抱き締める。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1238人が本棚に入れています
本棚に追加