魔法使いになりそこなったお話

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「帰ってきたメッセージなんて、家族以外に恋人くらいにしか送らないから、てっきりあの人が浜崎さんの恋人だと思ってました」 帰ってきたメッセージ? 「あの時、家に着いてすぐにスマホを取り出してメッセージ送るって。でも発情して上手く打てなくて、僕が代わりに打ったんです」 あの時、てあの時だよね。 ちゃんと美香ちゃんにメッセージ送ってたと思ったら、吉沢くんがやってくれてたのか。 「あの時から『美香ちゃん』さんの名前が忘れられなくて。そしたら昨日も一緒で玲央くんも懐いてるし、あなたは玲央くんを預けるくらい信頼してるし、てっきり僕、美香ちゃんさんは浜崎さんの恋人だと思って・・・」 嫉妬してました、の言葉は口の中でごにょごにょしてちゃんと言葉になってなかったけど、確かに吉沢くんは嫉妬って言った。 嫉妬? 美香ちゃんに? じゃあ昨日から顔を強ばらせてたのは僕に対して怯えていたわけじゃなくて、美香ちゃんに嫉妬していたから? 「この家もきっと半同棲のように彼女の荷物でいっぱいだと思ってました」 だからここに来た時も顔が怖かったのか・・・。 僕は思いもよらなかったことを言われてちょっと驚く。 美香ちゃんとだなんて考えもしてなかったけど、確かに男女で親友と言うよりは恋人という方がしっくりくるよね。だけど僕はオメガで、どちらかと言うと恋愛対象は男性だ。そっち方面から言うと同性の方に近い。 ぎゅうぎゅうされる腕の中で僕は身を捩って何とか腕を出すと、その腕を吉沢くんの背中に回した。 「僕が好きなのは吉沢くんだけだよ」 彼の背に回した腕に力を込めると、吉沢くんは一瞬びくんと身体を震わし、より一層僕を抱き締める。 「いま言うのずるいです。離したくなくなります」 そう言ってベッドに入ってこようとするから、僕はやんわりと彼を押し返す。 「吉沢くんは仕事に行くの」 「浜崎さ〜ん」 情けない声を出すから、僕は吉沢くんの頭を撫でてあげる。 「待っててあげるから、ここに帰っておいで。あ、でも吉沢くんの物なんにもないから不便だよね?やっぱり自分の家に帰る?」 ここに来てもなんにもないものね。今も昨日と全く同じ格好だし。営業としてはそれはダメなんじゃないかな? だけど、吉沢くんは目を輝かせていそいそと支度を始める。 「家から必要なものを持って、ここに帰ってきます」 完全に機嫌が良くなり、にこにこと笑いながら僕にチュッとすると、ご機嫌に出社して行った。それを笑顔で送り出してあげて、僕はベッドに沈んだ。 なんだかいろいろ疲れた。 ここに帰ってきていいと言った瞬間ご機嫌になった吉沢くんは、ここを出る時カギをかけてもらいたくて渡した合鍵を手にとると、さらにテンションが上がってしまった。その姿がひたすらかわいいと思ってしまうあたり、僕も大概だな、と思う。
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