魔法使いになりそこなったお話

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僕は普通の会社員だ。 オメガ枠で採用されたので、そこそこ名の知れた大きい会社に務めているけど、特にここを志望していた訳じゃない。 最初は普通に就活していたけど、やっぱりオメガであることがネックになって普通の就職は諦めた。なので条件がいいところから順にオメガ枠で受けていって、採用されたのがここだったのだ。 オメガの地位が上がって来たとはいえ、まだまだ見えない差別はあるもので、僕は一応そこそこの大学をそこそこの成績で出てはいるものの、高卒の子と同じ扱いをされている。つまり出世もお給料も緩やかにしか上がらない。 それでもそこそこの会社なので、一人で暮らすには十分だし、大した趣味もない僕はそのほとんどが貯金されている。 そんな僕の唯一の趣味は、高校からの親友の美香ちゃんと週に一度のランチと、月に一度の飲み会だ。 高校の時同じクラスになってから、なぜか意気投合した美香ちゃんはベータの女の子。 見た目も可愛くてスタイルもいいけれど、そのサバサバした性格が災いしてか恋人と長続きしない。モテないわけじゃ無いけど、気がつくと恋人がヒモか下僕になってしまうのだ。いわゆる姉御肌なんだよね。そんな美香ちゃんとのランチも四回終えて再び飲み会の日の待合せで、美香ちゃんは僕の顔を見るなり叫んだ。 「波瑠(はる)ちゃん大丈夫?!」 そう言うと僕の腕に手をかけて、駅のベンチに座らせてくれた。 毎月お給料をもらった最初の金曜の夜に、僕達は会社の最寄り駅で待ち合わせをする。会社は違うけど、降りる駅が同じなので、いつもそこで待ち合わせてからお店に行くんだけど、今日は美香ちゃんが心配するほど僕の体調は良くなかった。 「ごめん、美香ちゃん。なんか気持ち悪くて・・・」 とてもお酒が飲める状況じゃない。折角の月に一度の飲み会なのに・・・。 「いいよ。謝らなくて。それより今日は帰ろう。私いつもみたいに波瑠ちゃんちに泊まってくから、お世話するよ」 そう言うと、僕を支えて歩いてくれた。 いつも金曜の夜に二人で飲み会をして、そのまま一緒に僕の家に帰って泊まって行くので、美香ちゃんのお泊まりセットはうちに置いてある。 そんな訳で今日はそのままどこも寄らずに家に帰ることにしたんだけど、この気持ち悪さがくせ者で、途中我慢できなくなって駅のトイレで吐いてしまった。そんな僕にさらに心配になった美香ちゃんはそこからタクシーを呼んでくれて家までタクシーで帰ってきたんだけど、そのタクシーでも酔ってしまって、僕は家に着くなりトイレに駆け込んだ。 「大丈夫?」 トイレで吐く僕の背中をさすってくれながら、美香ちゃんが訊いてくれるけど、僕は大丈夫だって言えなかった。 込み上げてくる吐き気。 もう出すものがなくて胃液しか出ないのに、まだ治まらない。 それでもようやく治まった吐き気にトイレを出て、美香ちゃんに手伝ってもらいながら着替えてベッドに横になった。
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