魔法使いになりそこなったお話

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魔法使い・・・。 30歳まで経験がないと男は魔法使いになるらしい。 「覚えがないと言っても、妊娠は間違いなくしていますよ。最後の発情期はいつですか?」 その問いに前回の発情期の日付を告げ、内診台に上がるも心音を確認できず。 「まだ時期が早くて心音が確認出来ないので、また来週来てください」 そう言って帰されてしまった。 僕達はお会計を済ませ、とりあえず僕の家に帰ることにした。 吐き気は相変わらずで、体調はすこぶる悪い。けれどそれを上回るショックに、帰りに使ったタクシーでは酔わなかった。 そして家に着いた僕に、美香ちゃんは開口一番質問してきた。 「波瑠ちゃん、いつ妊娠するようなことしたの?!」 勢いよくそう聞かれても、本当に全く覚えがない僕はその問いに泣いてしまった。 「知らないよぉ・・・」 そう言ってえぐえぐ泣き出した僕に、美香ちゃんは焦って僕を抱きしめてくれる。 「知らないって・・・だってしなかったら妊娠なんてしないでしょ?」 オメガが妊娠するには男性とアレをする必要がある。言い換えれば、アレをしなかったら妊娠はしない。それもいつでも妊娠するわけじゃない。オメガが妊娠するのは発情期の時のみだ。 「そうだけど・・・本当に覚えがないんだよぉ」 なおも泣き続ける僕によしよしと頭を撫でてくれながら、美香ちゃんは順を追って思い出してみようと言った。 その言葉に顔を上げる。涙は取りあえず止めよう。 僕はタオルで目元を押さえ、ソファに座った。そこへ美香ちゃんがコーヒーを入れてくる。だけど僕の前にはホットミルク。 「妊夫さんにコーヒーはダメでしょ?」 そう言って自分だけコーヒーを啜った。 「で、妊娠だけど、本当に身に覚えがないの?」 「・・・ない」 本当に何も無い。 「前回の発情期は?実はアルファと過ごしたとか」 その問いに、僕は間髪入れずに『してない』と首を振った。 「その時は美香ちゃんに買い出し頼んだじゃん。アルファなんていなかったでしょ?」 前回は予定よりも早く発情期が来てしまって、備えが不十分だったのだ。それで美香ちゃんに足りないものの買い出しを頼んでいた。 ここはオメガのためのマンションだから、寝室にはカギがかかり、防音になっている。だからたとえ他の人がいても恥ずかしい声を聞かれることは無い。 「確かにここ来たわ。でも寝室まで入らなかったし・・・」 なんて言うから、僕はじとっと美香ちゃんを見た。 「・・・嘘です。あの時はちょうど調子がいい時だったとかで、顔を出してくれたもんね。はい。アルファなんていませんでした」 そもそも誰かと一緒に過ごしていたら、美香ちゃんを呼んだりしない。 「でもじゃあ、一体いつ妊娠したの?」 その言葉に、僕の目からまた涙が溢れ出す。
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