魔法使いになりそこなったお話

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「あぁ、波瑠ちゃん泣かないで。でも妊娠はしてるんだから、どこかで何かがあったのは確かでしょ?思い出してみよう。ね?」 そう言ってまたよしよしと頭を撫でてくれる。 確かに何かがなければ妊娠なんてしない。 だけど・・・。 「もしかしてエイリアン?!」 そんな映画を前に見た。町中の人が原因不明の意識不明に陥って何事も無かったかの様に意識を戻すも、若い奥さんがみんな一斉に妊娠して、同じ時に出産するんだ。その子供はみんな異星人だった・・・。 「どうしよう・・・僕のお腹にいるのエイリアンなんじゃ・・・」 本気で怖がってるのに、美香ちゃんは呆れ顔。 「それを言うなら神様の方がしっくりくるわ。波瑠ちゃんはまだ純血のオメガ(おとめ)でしょ?」 僕がまだ誰とも経験していないことを知っている美香ちゃんは、ちょっとからかい気味に言った。 「残念。来年本当に魔法使いになるか確かめたかったのに、妊夫さんじゃ対象外だね」 そう言ってお腹をつついた。 「だけど、本当に何も無くて妊娠はしないんだから、よく考えよう。発情期以外でも覚えはないの?」 そう言われて、発情期以降も思い出してみる。 そう言えば・・・。 「先月の飲み会の時、僕一人で帰ったでしょ?その時の記憶が無いんだ」 そうあの時、駅で美香ちゃんと別れてから朝起きるまでの記憶がなかった。 「え?聞いてないよ。そんなこと」 「うん。言ってない。だって、記憶はなかったけど、ちゃんと家のベッドに着替えて寝てたし、カギもちゃんとかけてあったから・・・大したことじゃないと思って・・・」 最後は言い訳の様に小声になってしまった。そんな僕に、やっぱり家まで送って行けば良かった、と美香ちゃんが頭を抱える。 「でもその時は発情期じゃないし、どこも変わったところなかったよ。家だってもし誰かが来て帰ったなら、カギ開いてるはずだし」 うちのカギは僕のと美香ちゃんが持っているのの二つだけだ。そのどちらもいまここにある。 もしもの時のために、僕達はお互いにカギを渡しているのだ。 「・・・でも事の場所がこことは限らないじゃない」 確かに・・・。 「あ、その日僕、美香ちゃんにメッセージ送ってるよ」 そうだ。帰ってきたってお知らせメッセージしてるはず。 それを聞いて美香ちゃんがスマホを調べる。確かにメッセージはあった。それも時間的にもおかしくない時間だ。 「ほら、寄り道しないで帰ってるよ」 それを見て、美香ちゃんが唸る。 だけど、それを送った記憶も実はない。それを美香ちゃんに言うと、擬陽性ね、と呟いた。
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