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どうしたのかと見ていると、どうやら僕の後ろを見ているようだ。すると・・・。
「浜崎さん!」
その声に振り向くと、ちょうど開いたエレベーターから青年が降りてくるところだった。そしてその人は、さっき閉まりかけのドアの隙間から見えた新入社員だ。隣のエレベーターで降りてきたらしい。だけど、その顔が・・・。
彼は僕の名を呼んで駆けてくるも、僕の腕の中にいる玲央を見てその足を止めた。驚きで目を見開いた彼の顔は、玲央そっくりだった。
エントランスで凍りつく三人。けれどその沈黙を玲央が破る。
「はるくん、だあれ?」
その声に僕は玲央を見て、美香ちゃんが動き出す。
「会社の人だよ」
「玲央、今日はうちにお泊まりしない?」
僕の言葉に被るように、美香ちゃんが言葉を発した。
「みかちゃんち?」
「うん。ミケが玲央と遊びたいって」
その言葉に玲央の目が輝く。
ミケとは美香ちゃんが飼っている猫だ。
「今日は玲央を預かるから、ちゃんと話しておいで。明日もちゃんと保育園に連れていくから大丈夫よ」
何かを察したように美香ちゃんはそう言うと、玲央を抱っこした。
「美香ちゃん・・・」
「ほら、玲央。波瑠ちゃんにばいばいして」
その言葉に玲央は僕にばいばい、とかわいく手を振ってくれる。
「玲央、いい子でね。明日迎えに行くから」
玲央はにこにこ笑って大きく頷くと、美香ちゃんに抱っこされながらエントランスを出ていった。その姿が見えなくなってようやく、僕は彼を振り返える。彼はそのまま、玲央が消えた方を見ていた。
「あの子・・・僕の子ですよね?」
小さくつぶやくその言葉に、僕はもう驚かない。だって、違うというにはあまりにも似すぎている。でも、彼の顔を見ても香りを嗅いでも、僕にはやっぱり思い出せなかった。
「そうなの・・・かな・・・?僕は覚えてなくて」
その言葉に彼は驚きの顔を僕に向ける。
「僕は全く覚えてなくて・・・。良かったら教えてもらえないかな?僕になにがあったのか」
僕の言葉に何度も瞬きをして何かを言おうとした彼は、一度ぎゅっと目を瞑ると、大きく息を吐いた。
「僕も、話したいです。あなたと」
そう言ってくれた彼と、僕は今夜話し合うことを約束した。
僕は退社したけれど、彼はまだ少し仕事が残っているようで、僕は住所を教えて家に来てもらうようにお願いした。
本当は自宅に来てもらうなんて危ない行為なのかもしれないけど、僕は不思議と彼に危険を感じなかった。むしろ安心するような、頼りたいような・・・。だから、彼に仕事が終わったら来てもらうように告げ、僕は先に家に帰ってきた。
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