エピソード5 ヒーローズジャム

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エピソード5 ヒーローズジャム

 「ぎゃああああっ!!」 「きゃああああああっ!!」  ラウンジ内に絶叫が轟く。  蟹と蟷螂を合わせたような異形の怪物がその場に集う人々を次々と蹂躙していく。  怪物の攻撃によって切り裂かれ食い散らかされた人間の四肢や頭が鮮血に染まったラウンジの床に所狭しと散乱していた。 「なあケンジ、あの怪物は……」 「ああ間違いない、俺らがやってるRPGネビュラレイのモンスター、アーミーシェルだな」  アキマサとケンジはお互いの顔を見合わせ頷き合う。 「おい、二人だけで納得するなよ、僕にも説明してくれないか!?」 「済まんコウ、お前はネビュラレイをプレイしていないんだったな、今目の前で暴れている怪物はアーミーシェルと言うとあるボスキャラの前座として現れるモンスターに酷似しているんだよ、いやその物と言っていい」 「何だって!? あの怪物はゲームの敵キャラだって言うのかい!?」 「そうだよ、ただお前もご存じの通りゲームのNPC(ノンプレイヤーキャラクター)の敵モンスターや敵キャラが総合ロビーであるラウンジに出て来るはずがない、そうだろう?」 「そう通りさ!! こんな事、今までに無かった!! そもそもここのプログラム上そんな事は不可能なはずだ!!」  アナザーリアリティにはリゾートエリアなどと並行でアバターで行うバーチャルリアリティーのゲームが多数あった。  ゲームエリアは全体の八割を占めそのジャンルは、RPG、FPS、格闘ゲーム、スポーツゲーム……といった具合に実に多岐にわたっている。  ラウンジは謂わば総合集会場であり、各々のエリアへ行くための分岐点でもある。  だが各エリア、特にゲームエリアはゲームによって仕様が大きく異なるが故にこのラウンジが障壁となっていると言っていい。  その為ゲーム側の装備をプレイヤーが持ち出す事もゲーム側のキャラクターがらラウンジ側に来ることも本来は出来ない筈だった。 (そう、コウの言う通りだ、でも俺たちは自分のプレイしていたゲームの能力が使えた……これの意味する所は何だ?)    アキマサは考察してみるがそもそもこの異常事態に意味なんてあるのだろうかとも思っている。 「ちょっと!! なに物思いに耽っているの!? あの怪物がこっちにやって来るわよ!!」  シィンディの怒声が飛んでくる。  見ると数体のアーミーシェルが複数ある脚を蠢かしてこちらへと走ってきた。 「こうなったらやってやるわ!! 光華拳奥義!! 波動掌!!」  シィンディは勝手知ったるというかもう既に場に順応しており、何の躊躇も疑問も無くゲームの技を使用している。  高速で飛んでいった衝撃波風の気弾は中ったアーミーシェルを見事に弾き飛ばす。 「やるなシンディ、俺もこうしちゃいられない!!」  アキマサは辺りを見回す、自分の武器になるものを探すためだ。   「おっ、お(あつら)え向きの物があったぜ!!」  床に散らばっていた本来ラウンジの装飾であり、天井付近で旗を掲げるために使われていたポールだ。  長さも人の身長より少し長い位で、アキマサの得意武器である槍として使うには申し分ない。  これも本来ならば破損してその破片が残るなど有り得ない事だ。 「こっちもいいものを見つけたぜ!!」  ケンジは屈んだら人が一人隠れられるほどの大きさの看板を拾ってきていた。 「いいじゃないか、タンク職のお前にぴったりだよ!!」 「だろう!? アキマサ、いつもの戦法で行くぞ!!」 「おうよ!!」  ケンジは看板を構え新たに現れたアーミーシェル達に突っ込んでいく。  それに少し遅れてアキマサもポールを携えケンジを追い掛ける。 「ディフェンディングアーツ!! ヴァリアブルシールド!!」  ケンジの掛け声に呼応し彼の持っていた看板の盾が虹色に輝く。  その光はそのままの形で大型化し、襲い掛かって来たアーミーシェル数体の鎌攻撃をいとも容易く防いでしまった。 「アキマサ!!」 「オーライ!! ファイティングアーツ!! ラピッドスパイン!!」  アキマサがケンジを飛び越え頭越しに槍の様に持ったポールをシールドに足止めされているアーミーシェル目掛け何度も突き立てる。  その突きの速さは目視で確認することは困難で、まるで一度に何本も槍を同時に突き出している様にすら見えた。  攻撃を受け身体に多数の穴が開きグズグズに崩れ落ちていくアーミーシェル達。   「やったな!!」  パチン!! とハイタッチする二人。  特に話し合った訳でもないのに二人はさも当然の様にその連携を取っていた。  これは普段から彼らがネビュラレイでとっていた戦法だ。 「これは……切りが無いわね……」  ミカが辟易とした表情で力なくつぶやく。  アキマサ達が数体アーミーシェルを倒してもまさに焼け石に水、次々と新しい個体がラウンジ中央の穴から湧き出てくる。 「どうにかしてあの(ジェネレーター)を塞がなくては」 「そうは言うけどよ、この状況でどうやってそれをやるってんだ? NR(ネビュラスレイ)みたいに周りに岩場は無いぜ? しかもここにはガンナーが居ないと来たもんだ」  ケンジが言っているのはNR(ネビュラスレイ)ゲーム本編出の話。  アーミーシェルが出現するミッションでは今の様にジェネレーターと呼ばれる無限にアーミーシェルを生み出す穴が必ず現れる。  プレイヤーは群がるアーミーシェルを退治しつつこのジェネレーターを塞ぐのがミッションクリアの目的になっているのだ。  その際、必ずジェネレーターの付近にはあからさまに崩れ安そうな岩場が隣接しており、ガンナー職という重火器を扱うジョブのプレイヤーが重火器用のアーツを使ってその岩を破壊しジェネレーターの上に落として塞ぐという戦法が最もポピュラーであった。 「じゃあ俺がやる、絶対にガンナーじゃなきゃ出来ないって訳でも無いだろう? ここは俺の槍で……」 「待ってくれ、ここは僕にやらせてくれないか?」 「コウ?」  アキマサとケンジは困惑する。 「コウお前、ネビュラスレイをプレイしていないじゃないか、どうするってんだ?」  ケンジがコウに食って掛かる。 「僕も試してみたいんだ、君らみたいに自分のゲームのスキルを使えるかどうかをね」 「まさか、お前は……?」 「そう、僕がプレイしているFPS、【ガンナーズハイ】のスキルさ」  そう言ってコウが自らの前の空間を手で払うような操作をした。  すると目の前にコマンドがずらりと表示されたウインドウが開いた。 「君らはここに在るオブジェクトを武器代わりにしていたみたいだけど僕にはそれが出来ないからね、実際の武器を使わせてもらうよ」  コウがウインドウに表示された武器を手でタップすると、彼の手の中にその銃が現れたではないか。 「スゲェ!! どうなってんだ!?」  ケンジが目が飛び出そうなほど見開く。 「まずは邪魔な蟹どもを一掃しようか」  コウは持っている口径の広い銃の引き金をやや上空に向かって引いた。  発射された弾丸と呼ぶには大き目な弾が放物線を描きアーミーシェルが集まっているほぼ中心に向け落下していく。  ボン!!  着弾と同時に弾頭は炸裂し、辺り一帯が火の海と化した。  香ばしい匂いをさせながらアーミーシェルが焼き上がっていく、ジェネレーターを守っている者は何もいない。 「やるじゃないかコウ!! でもジェネレーターはどうやって塞ぐ!?」 「あれを破壊してあそこに落とす」  コウが指さしたのはラウンジ中央にそそり立つセントラルタワーと呼ばれる高い塔だ。 「これまでは破壊なんて不可能だったけど今なら出来るんだろう?」 「……そうかもしれないが、恐ろしい事を考えるなお前……」  アキマサは思わず絶句してしまった。   「じゃあやるよ!! みんな回避行動を!!」  コウは今度は肩に担ぐほどの巨大なビームキャノンを出現させた。  横に突き出しているスコープを覗き込み照準をセントラルタワーに合わせた。 「ロックオン!! シュート!!」  ビームキャノンから極太のビームの束が発射され見事セントラルタワーの中腹を打ち抜く。  大穴が開いたタワーはゆっくりと倒れ始め、崩れた瓦礫は狙った通りジェネレーターの上に落ち、見事に穴を塞いだのだった。 「ヒューーーー!! やるなコウ!!」  ケンジが口笛を吹きながらコウを讃える。 「ほらーーー!! ケンジも遊んでないで残党を狩るよ!! アキマサも!!」 「ヘイヘイ、仰せのままに」  アキマサとケンジはコウに習って空中を撫でる。  するとやはりコマンド一覧が開く事が出来た。 「こりゃあご機嫌だぜ!! NRの装備を使った方が断然捗るってもんだ!!」  ケンジはご満悦だ。 「よしみんな!! 一気に片付けるぞ!!」 「おう!!」  アキマサ達クランメンバーの活躍でラウンジの惨劇は一応の終息を迎えるのだった。
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