エピソード8 モンキャプ

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エピソード8 モンキャプ

 「アハハハハハッ!! 燃えろ燃えろ!!」  ならず者の一人が放った火炎により黄金色の小麦畑は一瞬にしてグレンの炎に包まれた。  炎は延焼を繰り返し、ファームエリアの殆どが火の海と化していく。 「それっ!! 食らえ!!」  今度はハンドグレネードを収穫物を補完するための大型倉庫に向かって投げつけ、倉庫は高い火柱を上げて大爆発を起こした。 「野郎!! 何て事しやがる!!」  アキマサの槍を握り締める手に力が籠り怒りから来る痙攣を起こしている。 「このままでは外とのやり取りをするメッセージを書き込める場所が無くなる!! 何とか止めるんだ!!」 「おう!! 任せろ!!」  コウに言われるまでも無くアキマサとケンジはならず者たちの方に向かって走り出そうとしていた。 「ちょっと待ってよ二人とも!! アイツらってアバターよね!?」 「それがどうした!! こんな暴挙、放っておけないだろう!?」 「相手は人でしょう!? 倒しちゃって大丈夫なの!?」 「あっ……」  シィンディに言われてアキマサ達も気付く。   「そうか、さっきの蟹の怪物はNPC(ノンプレイヤーキャラクター)だから何の気兼ねも無かったけど、あれは人のアバター……倒したり殺したりした場合プレイヤーがどうなるか分からないのか」 「確かに……ゲームエリア内なら対戦者をキルしても何の問題も無いけど、今のARなら最悪相手の命を奪ってしまうかもしれないのか」 「じゃあどうすんだよ!! このまま全てが焼けちまうまで見てろってのか!?」  アキマサ、コウ、ケンジ、シィンディはお互い顔を見合わせが誰も答えを出せないでいる。 「……取り合えず火は消しましょう、私に任せて頂戴」 「ミカさん?」  ミカがゆっくりだがしっかりとした足取りで炎に向かって歩き出す。  そして前方の空間にモニターを呼び出しある項目をタップした。  すると空中に杖のような棒状の物体が現れた。 「万物の源である水よ我の前にはだかる炎を沈め給え」  ミカはそれを手に取ると何やら呪文のような物を唱えだしたではないか。  見る見る掲げた杖の先に水が溜まっていき激しく渦を巻く。 「フラッシュフルード!!」  ミカが杖を前方に向かって振り下ろすと大きく成長した水の球が物凄い速度で前方に飛んでいった。  水の球は炎に中った途端大きく爆ぜ広範囲の炎を見事に消したのであった。 「こんな所かしら?」 「ヒューーー!! ミカさんやるーーー!!」 「凄いです!! ミカさん!!」  微笑むミカに向かって口笛を吹くケンジと目を輝かせるアキマサ。 「ミカさん、それって魔法ですか?」 「そうよ、私がプレイしている王道ファンタジーRPG【ナイトオブワルプルギス】の魔法ね」  ミカはシンディにくるくると杖をバトンの様に回してポーズを決めて見せた。 「ミカさん、それを繰り返せますか?」 「数回ならね、これだけ燃え広がってしまったら全部を消すのは無理かもよ?」 「それでもいいです、なるべく芝生を優先して消化してください」 「分かったわコウ君」  ミカはそれから数回フラッシュフルードの魔法を繰り返した。  これによりある程度の炎は鎮火していった。 「はぁ……少し疲れたわ……」 「お疲れ様です!! ミカさんは少し休んでください!!」 「あら、気が利くのねアキマサ君、それじゃあ遠慮なく」  どこから持って来たのかアキマサは椅子を取り出しミカに座らせた。  その様子を渋い顔でシンディが見ている。 「よし、それじゃあさっきの続きを……」 「おうおうおう!! 何邪魔してくれてる訳!?」  声のする方に目を向けると先ほどのならず者共がこちらに向かって歩いて来るではないか。 「邪魔をしてくれたのはそっちだろう? こっちは少しでもこの異常事態を収拾しようと活動しているというのに」 「ああ!? いい子ちゃんかお前らは!?」  ならず者の一人がコウと額同士がぶつかりそうなほど顔を突き合わせる。 「こんなに面白い事になっているってのに元に戻すなんて勿体ないだろう!! 余計な真似をするんじゃねぇよ!!」 「ふっ、こんな時にこそ人間の本質が垣間見えるな、混乱に乗じて現実世界では犯罪紛いの快楽に興じるなど人間にあるまじき行為だ……君らのその装備はガンナーズハイの物だろう、ゲームの評価が下がる、止めてもらえないか? 同じゲームを遊ぶ者として迷惑だ」  コウは毅然と反抗する。 (コウの奴、相当頭にきてるみてぇだな) (ああ、普段のコウならここまで相手を蔑む言い方はしない)  ケンジとアキマサがコソコソ話をする。 「ああそうかい!! だがな、そう言われてはいそうですかと従うとでも思ったか!? さっきは火を消されちまったがまた放てばいい!! 見た所そっちにはもう火を消せる余力は無いみたいだしな!!」  休んでいるミカに目をやりほくそ笑むならず者。  しまい込んでいた火炎放射器を再び出現させ構えを取る。 「植物を焼くのは飽きたし今度はお前らを焼いてやろう!!」  そう言い放つとコウに向け引き金を引いた。 「危ない!!」  炎がコウに到達する前にシールドを構えたケンジが間に割って入った。 「アチチチチチッ!! 肌を焼くのは日差しだけにしてくれねぇかな!!」 「ケンジ!! 済まない!!」 「いいって事よ!!」 「この野郎!! いい加減にしやがれ!!」  アキマサが横から飛び掛り槍でならず者の火炎放射器から背中のバックパックに繋がるパイプを突いた。 「なっ……ぎゃああああああっ!!」  パイプから洩れた液体燃料に火が引火した。  火だるまになり地面を転げまわるならず者。 「リーダー!!」  他の三人が転がる男に向け消火器を使い火を消す。 「てめえ!! よくもリーダーを!!」 「先に仕掛けて来たのはそっちだろう!!」 「うるせぇ!! 問答無用!!」  ならず者たちは一斉にマシンガンを出現させ一斉掃射を開始した。 「こいつら!! もう許さねぇ!! やっちまうけどいいよな!?」 「殺すなアキマサ!! 何とか戦闘不能に出来ないか!?」 「分かってるよコウ!!」  飛び交う弾丸の中、アキマサは信じられない速度で掻い潜り相手の懐へと潜り込む。 「まずは一人目!!」  槍を振り回し柄の方を男の腹へと叩きつける。 「がはっ!!」  弾かれた男は激しく」後方へと飛ばされ地面に叩きつけられた。 「アキマサ!! 横!!」 「OKケンジ!!」  ケンジの助言にすぐさま反応しアキマサが飛び退く。  今まで彼がいた場所を弾丸が通り過ぎていく。 「俺らのチームワークをなめんな!!」  アキマサが横凪に槍を振り回し、刃の無い部分を相手に叩きつけた。 「ぐわっ!!」  回転しながら吹き飛び地面に横たわる男。 「確かもう一人いたはずだが……」 「きゃあ!! アキマサあれ!!」 「シンディ!?」  シンディが指さす方を見ると最後の一人が何やら太くて長い筒を足元に置きながら引きつった笑みを浮かべている。 「まさかそれは……」 「そうさ!! お察しの通り爆弾よぉ!! おっと、動くなよ!? 動いたら起爆させるぞ!? この爆弾は強力でな、お前らどころかこのエリアごと吹き飛ばす程の威力がある!!」 「馬鹿な真似はよせ、そんな事をすればお前だってただでは済まないぞ!!」 「だからどうしたって言うんだ!? アバターが吹き飛んだところでどうしたって言うんだ!!」 「聞け!! もしかしたら今のARではアバターが傷付けば本体も傷つくかもしれないんだ!!」 「そんな事を言って俺を騙そうったってそうはいかないぜ!! それじゃあ聞くがその事を誰か確かめたってのか!?」 「………」  男はアキマサのいう事を信じようとはしない。  しかしアキマサ達もその事は予測の域を出ていないのでそれ以上反論することが出来ない。 「馬鹿め!! 腹いせに全て消し飛んでしまえ!!」  男は持っていた爆弾の起爆スイッチに指を掛けた。 「ダメーーーーーーっ!!」  突如、キャシーが叫ぶ。  次の瞬間、足元から何か長い物が二つ、男を挟むように飛び出す。  それは何か動物らしきものの嘴にも見える。 「なっ、何だこれは!? ぎゃああああああっ!!」  その嘴は両側から男を挟み込み、そのまま飲み込んでしまった。  暫くして僅かだが地面が揺れた。  恐らく地中で爆弾が爆発したのだろう。 「今のは一体……」  何が起きたか分から立ち尽くす一同。 「もしかして今のはキャシーちゃんの仕業?」 「……うん」  ケンジの問い掛けに僅かに聞こえる程の小さな声で返事をするキャシー。 「私のやってる【モンスターキャプチャー】のモンスター召喚を使ってみたの……」 「やっぱりあれは生き物、モンスターの嘴だったんだ」 「何、じゃあさっきの奴食われちまったの!? 確か爆発もしたよね!?」 「大丈夫、先に人だけ吐き出させたから」  キャシーが指さす方を見ると地面から先ほどの男の頭が地面から出ており完全に気絶している。  見た目は少しシュールだ。 「じゃあさ、さっきのモンスターはお腹の中で爆弾が爆発しちゃったんだ? 死んじゃったの?」 「それも大丈夫、モンスターはやられてしまっても消えるだけでまた呼び出せるから」 「そう、それは良かったわ」  シンディは胸を撫でおろす。  いくらモンスターが造られたデータの集合体だとしても自分たちの為に存在が消滅してしまっては寝覚めが悪いという物だ。 「よし、これでやっと作業に戻れるね」 「まだやるのかよ、あれは地味に疲れるんだぜ?」 「そんなケンジ君の為にジャーーーーン!!」 「それは……」  シンディの手には鎌が握られていた。 「手で毟るのは大変でもこれなら大丈夫なんじゃない?」 「そんな便利なものがあるなら最初から出せ!!」  ケンジが腕を突き上げ激昂する。  何はともあれ何とか残った芝生を利用して今回最後となるメッセージを書き終えたクランヒーローズジャムの面々であった。
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