エピソード0 荒廃した世界

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エピソード0 荒廃した世界

 目の前に広がるは瓦礫の山。    かつて大都市が存在したであろう形跡のある廃墟。  朽ち果てたビルや建築物、動かなくなって久しい自動車の残骸が道路であったと思われる長く開けた場所に雑然と転がっている。 『フゥ……何だって俺たちがこんな場所に来なきゃならないんだ……』  ヘルメットを被り全身を銀色のだぼだぼのスーツに包んだ男がため息交じりのやる気のないセリフを吐く。  言葉の発し方から多少不真面目な印象を受ける。 『ぼやくなぼやくな、これも人類の過去の文化や風俗の繁栄を研究するのには必要な事なんだよ』  もう一人、同様の恰好をした男が先ほどの男を宥める。  こちらは先程の男に比べ落ち着きがある。  二人の会話は通信装置を介して行われているため、多少くぐもって聞こえている。 『ならさ、ドローンとかでも良くね? 防護服を着ているとはいえこんな汚染地区に生身で出向くなんて正気の沙汰じゃないぜ』 『そうもいかないんだよ、実際に己の目で見、手に取らなければ得られない情報もあるからな』  彼らの宇宙服然とした服装はあらゆる病原菌や有害物質を完全遮断する事の出来る防護服だ。  何故ならこの荒廃した地区は放射線濃度が高く、更に感染能力が高く死亡率の高い病原菌が蔓延している場所なのだ。  肌を露出した恰好では10分として生きてはいられないだろう。  彼らが現在行っているのは所謂前時代の遺跡の調査であった。 『酸素残量はどうだ?』 『75パー位だな、帰りの分も考慮するとあと2時間くらいしかここにはいられないんじゃないか?』 『そうだな、急ごう』  二人は目の前にある構造物の中に入った。 『ここは……』  構造物の中は一切の仕切りのないホールになっており、得体のしれない箱型の装置らしきものが整然と並んでいた。 『これはディスプレイか? 4対3の比率で端に行くほど多少丸みがあるな』 『どれどれ? これはブラウン管じゃないか、以前ネットのライブラリで見たことがある、実物を見るのは私も初めてだ、この時代の後には確か液晶や有機ELという物を使ったディスプレイも存在していた筈』 『考えられないな、ディスプレイの空間表示や網膜投影式の映像技術が開発された現在からは』 『ああ、だがこんなに沢山ディスプレイを必要とするこの施設は一体……』  男がその中のディスプレイの一つの側面を触る。  すると埃が払われ文字が現れた。 『電影闘士?』  更に広範囲を手で拭うと空手の道着や軍服など様々な衣装を着たキャラクターの顔と何やら矢印と丸い図形がずらりと並ぶイラストが次々と現れたではないか。 『ああ!! 俺これを知ってるぜ!! これは対戦格闘ゲームと呼ばれるゲームの一種で大昔に大ブームになったと聞いた事がある!!』 『ゲームか、という事はこれはゲーム機なのか? じゃあ画面の下にあるこのパネルに生えているスティックとボタンらしきものは操作パネルなのか?』 『ああそうさ、今日び手を使って直接キャラクターを操作するゲームなんか無えからよ、珍しいよな』 『それを言うならわざわざこんな所まで足を運んでゲームをするなんて……変わった時代だよ』 『そうだな、今は自分の部屋でヘッドマウントデバイスを使った没入型バーチャルゲームが主流だ……そもそも部屋から出てどこかに出向くなんて考えられないぜ』  彼らにとってこの遺跡から判明した情報はどれも時代錯誤の技術に感じられるのだろう。 『なあ、このゲーム機、起動してみないか?』 『そんなことが出来るのか?』 『出来る、持って来た発電装置を繋げばね、但しコネクタが合うだろうか?』 『ゲーム機のコードを切って直接つなぎゃいいんじゃね?』 『そうだな、そうしてみるか』  数分後、工作が終了し電源を入れる。 『おおっ!!』  画面に表示されたタイトル画面、ゲームタイトルの小さい文字が拡大され大きくなる。 『せっかくだからちょっとやってみようぜ!!』 『うん、ってあれ? これどうやって進めるんだ? スタートボタンを押しても始まらない……』 『そんなぁ……』  彼らはこの時代のアーケードゲームは硬貨を入れないと稼働しない事を知らなかった。  だがすぐに内部のサービススイッチ(無料でゲームをすることが出来る)を発見してゲームを遊ぶことが出来たのだが、ゲームに熱中し過ぎて危うく酸素ボンベが空になる所だったのを付け加えておく。    時は2221年……有害物質や病原菌により汚染された地上は既に人が暮らせる状況ではなかった。  その事で人類は地下に潜り都市間の人間の行き来はほぼ行われなくなった。  その代わりネット技術が急速に発展、高度なネット空間を形成する事となる。  人類はそこへ精神を没入する装置と技術を開発し、人々は挙ってそれを使いネット空間に活動の場を移す事になった。  ネット空間……アナザーリアリティ。  そこは一切の障害も拘束も制限も無い新たなる現実。  これから始まるのはそんなアナザーリアリティで繰り広げられる人間の欲望と可能性の物語。
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