1

5/9
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
 車に乗り込む背中を眺める。俺に気が付く前はもっとこう、スイッチが入っていたように見えた。胸を張って、堂々としていて。今は気が抜けたのか猫背気味だ。俺と会話した瞬間これだ。可愛い。多分俺が二郎君を弱くしている。そんな気がする。強けりゃいいってもんじゃないけど。二郎君にとって俺は弱さを見せてもいい存在なのだろうと解釈した。そうだとしたら嬉しい。俺は、二郎君にとって、そういう存在。俺は。  駐輪場に停めたプレスカブに跨る。鍵を差し込んで捻る。右足でキックペダルを奥まで踏み込む。エンジンが回り出す。止まっていた心臓が再び動き出したかのようにプレスカブが音を立てて振動する。俺はスピードメーターに突っ伏すように額を当ててスロットルを捻りエンジンを吹かす。大きく溜め息をついた。自分のことは嫌い。考えると死にたくなる。できれば自分はいないものとして世の中が回ってくれればいいと思う。誰かにとって大切な何かになるのは正直荷が重い。俺に期待なんかしないでくれ。辛い。ああいかんいかん。聴け、エンジン音を聴け。エンジン音を、聴け。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!