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「何やってんですか」声がした。振り返るとアイコスを持った山崎園子がいた。レースのついた長袖のブラウスに細身のパンツ。今日はスカートじゃないのか、珍しい。 「カブと対話していました」  あからさまに苦い顔をされた。 「もしかして町外出る気ですか?」 「いえいえそんな」  細い腰に手を当てて訝しげに目を細め、上目遣いでこちらを見る。前々から思っていたが仕草がいちいちあざとい。俺に対してもそういう態度なので恐らくわざとではない。 「はずむちゃんにチクっちゃお」と山崎さんがスマートフォンを出す。 「いや待て」 「やっぱり町外出る気なんじゃないですか」 「あ、そういえばアクシーズの新しいコート可愛かったですよね」 「可愛かったけど。てかなんで松下さんがそんなこと知ってんですか」 「山崎さん欲しいかなって」  山崎さんが俺を睨む。「自分で服買うお金ぐらいありますし」  駄目だったか。肩を落とす俺に山崎さんは何かを思い出すように空を仰ぎ、ニヤリと笑った。 「じゃあ私からの提案」  うわー、嫌な予感。 「友達の彼氏がバンドやってるんですけど、最近ボーカルが行方不明になっちゃったらしくて」  想定の斜め上のエピソードが飛び出してきた。俺はとりあえず黙って聞くことにする。
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