1・お突き合い?!

1/1
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ

1・お突き合い?!

 そう、あれは。 「池内」  悠が蓮とたまたま一緒に、会社の玄関に居た時のことであった。彼は他社でも有名らしく、たくさん知り合いがいるようで。その日もわが社にやって来た他社の社員に話しかけられていた。 「ちょ、今日は可愛い子と一緒じゃん」 「ん?」  蓮は、なんのことだと言うように相手に視線を向ける。 「付き合ってる子とか?」 「突き合う?」  ゴルフクラブを振り回そうとしていた蓮の手が止まる。悠は彼らから離れると、自動販売機に向かった。今日は、新作のジュースが導入されるということを思い出したためだ。 「あった」  悠は二人の会話が気になったものの、新作のジュースを見上げる。 「突きあってはいないな」 と、連。 「可愛い子なのに。勿体ない」 「俺は突くのは好きだが、突かれる趣味はない。それに本人の希望は聞かないと」 「はい?」  悠が近くにいたのはたまたまだ。 「おい。受付お嬢」  炭酸リンゴを嬉しそうに抱えた悠が、徐にイヤそうな顔をする。 「なあに、おいって」 「突くと突かれるどっちが良い?」 「え?」  悠は何を言われているのか謎であった。そもそも彼がわけのわかることをいった試しはない。 「あなたといると、疲れる」  ニコッと笑い、嫌味を言ったつもりであったが、 「よし、今日から俺の彼女だ」 と言われ、 「はい?!」 と困惑する。 「成立だ。今日から俺たちは突く突かれるの関係だ」 「なんなのそれ!」  悠は、あまりに突然の地獄に卒倒した。 「ねえ、カワイコちゃんぶっ倒れたけど?」 と、他社の社員。 「おい、受付お嬢。しっかりしろ」  しょうがないなと言って、蓮は悠を担ぎあげる。そう、首に。 「ちょっとまて、池内」 「なんだ?」  救助担ぎの蓮にストップをかける彼。 「普通はおぶるだろ」 「は?」  蓮は悠の足を抑えている手の方を見る。彼女はひざ下のタイトスカートをはいていた。 「そんなことしたら、おパンティが丸出しになるだろう!」 「だったらせめて、お姫様だっことか」 「うーむ。注文が多いな」  蓮はめんどくさそうにそのまま、玄関に入っていったのだった。 ──そうそう、なんか気絶していてあんまり記憶がないのよね。  悠は頬杖をついたまま、記憶を辿る。そういえばあの時のジュースどうしたのかしらと。 「受付お嬢」 「なによー」  気づけば、目の前に蓮が立っていた。 「いい加減名前で呼びなさいよね。家では……ふがっ」  悠は口を手で押さえられる。 ──そう、何故か家では”悠タン”と呼ばれることが多いのよね。 「俺の威厳が損なわれる」  そもそもそんなものあったかしらと、悠は首をかしげるのであった。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!