5人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
私はずっと旅をしていた。
それは、いつも私を呼ぶ者と出会う旅だった。
私は日本中を歩き回ったが、その者とは会えなかった。
仕方なく私は、世界に目を向けた。
私は、とりあえずイントに向かった。
何故インドに来たかと言うと、東京にいた私の耳に届いた声が、
『不思議な山に来い‥‥』
と聞こえたからだ。
しかし、それだけでは分からなかったので、ネットで調べると、インドの田舎に在る――と分かったからだった。
私は空港を出るとタクシーに乗り、
「不思議な山――と呼ばれる所に行ってください」
運転手は少し困ったようだったが、やがて納得すると、車を出した。
タクシーは、どんどん田舎に向かって走り続けた。
やがてタクシーは、ある田舎の端に到着した。
「ここですか‥‥?」
目の前には小高い山のようなものが在った。
タクシーの運転手は、
「この山が、不思議と呼ばれる山だよ」
それだけ言うと、走り去って行った。
しかしそこは、周りに旅館も何も無い所だった。
私は困ったが、とにかくその山を登りだした。
「多分、この上に誰かが待っているのだろう‥‥」
そう、つぶやきながら‥‥。
あまりはっきりとしない山道を歩きつづけ、ようやく山頂に着いた。
が、誰もいなかった。
「おいおい‥‥どういう事なんだ‥‥? 参ったな‥‥」
私は、目の前に広がる湖を見ながら、つぶやいた。
ま、しかし、これだけの絶景を見れたんだから、来たカイはあったとも言える。
ざっと見た感じ、まず日本には無い神秘な湖だった。
私は、座って一息つこうとした。
すると私の耳に、
『正面に見える洞窟に来い‥‥』
私は辺りを見回した。
正面といえば‥‥遥か向こうの湖岸に見える黒い穴だけだった。
「しかし‥‥来い‥‥といわれても、何も無いじゃん‥‥。一体どうやって‥‥?」
私が、さらに周りを良く見てみると、こちらの湖岸に小さな舟が見えた。
私は仕方なく、その舟の所に向かった。
その舟は古そうな舟だったが、なんとか二本のオールがあったので、私はその舟に乗ると、あの洞窟を目指して湖岸を離れた。
実に良い気分だった‥‥。
それは多分、この湖の水面からの匂いのタメだろう。
なんか、このまま湖面を一周したい気分だった。
しかし、ますます夕方に向かう空模様が、それを許してくれないようだ。
私はとにかくパワーを上げて、舟を進めていった。
ようやく例の湖岸に着くと、その洞窟は直ぐだった。
穴の感じは、大人がようやく通れる高さだった。
私は暗い中を歩き出したが、不安だった。
照明に使えそうな物を何も持ってなかったからだ。
見ると洞窟の壁に、古いローソクが奥に向かって据えてあった。
「だけど、マッチも何も持ってないんよ‥‥」
いよいよ足元が確認できなくなってきたので、私は立ち止まった。
すると、その据えられたローソクの全てに、火がついたのだ。
「な、なんと! 魔法か‥‥?」
私は、まだまだ続く洞窟の中を歩き出した。
ふと、前方の地面に何やら光る物が見えた。
私は急いで、そこまで行ってみた。
そこで待っていたのは、サッカーボールほどの水晶玉だった。
「そうそう、水晶と言えば占いに使うんだ‥‥」
私は、その水晶玉を持ち上げると、中を覗き込んだ。
中は、ただただ美しかった。
すると、その水晶玉から、
『ようやく会えたね。待ちくたびれたよ‥‥。で、インドの何処から来たんだね?』
「いえ、日本から来た、私は日本人です」
『なんと‥‥私の声は、もうインド人には届かなくなってしまったのか‥‥。だが、ここまで会いに来てくれて嬉しかった。さらばだ‥‥』
やがて水晶玉は、まるで泣いてるように震えだした。
そして次の瞬間、水晶玉はグニャグニャになって私の手から落ちると、まるで卵のように割れ、中から虹色の液体が流れだした。
私は、その流れを追いかけた。
その虹色の流れは、奥へ奥へと流れていった。
すると奥の闇から、まるで朝日のような光が見えだした。
私は、その光に包まれた。
やがて気が付くと、私の前に建っていたのは、自宅マンションだった。
振り向くと、後ろに洞窟は無く、林があるだけだったが、私は礼を言うと、マンションの入り口に向かった。
――おしまい――
最初のコメントを投稿しよう!