『そこには?』6:水晶(ミステリー)

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私はずっと旅をしていた。 それは、いつも私を呼ぶ者と出会う旅だった。 私は日本中を歩き回ったが、その者とは会えなかった。 仕方なく私は、世界に目を向けた。 私は、とりあえずイントに向かった。 何故インドに来たかと言うと、東京にいた私の耳に届いた声が、 『不思議な山に来い‥‥』 と聞こえたからだ。 しかし、それだけでは分からなかったので、ネットで調べると、インドの田舎に在る――と分かったからだった。 私は空港を出るとタクシーに乗り、 「不思議な山――と呼ばれる所に行ってください」 運転手は少し困ったようだったが、やがて納得すると、車を出した。 タクシーは、どんどん田舎に向かって走り続けた。 やがてタクシーは、ある田舎の端に到着した。 「ここですか‥‥?」 目の前には小高い山のようなものが在った。 タクシーの運転手は、 「この山が、不思議と呼ばれる山だよ」 それだけ言うと、走り去って行った。 しかしそこは、周りに旅館も何も無い所だった。 私は困ったが、とにかくその山を登りだした。 「多分、この上に誰かが待っているのだろう‥‥」 そう、つぶやきながら‥‥。 あまりはっきりとしない山道を歩きつづけ、ようやく山頂に着いた。 が、誰もいなかった。 「おいおい‥‥どういう事なんだ‥‥? 参ったな‥‥」 私は、目の前に広がる湖を見ながら、つぶやいた。 ま、しかし、これだけの絶景を見れたんだから、来たカイはあったとも言える。 ざっと見た感じ、まず日本には無い神秘な湖だった。 私は、座って一息つこうとした。 すると私の耳に、 『正面に見える洞窟(どうくつ)に来い‥‥』 私は辺りを見回した。 正面といえば‥‥遥か向こうの湖岸に見える黒い穴だけだった。 「しかし‥‥来い‥‥といわれても、何も無いじゃん‥‥。一体どうやって‥‥?」 私が、さらに周りを良く見てみると、こちらの湖岸に小さな舟が見えた。 私は仕方なく、その舟の所に向かった。 その舟は古そうな舟だったが、なんとか二本のオールがあったので、私はその舟に乗ると、あの洞窟を目指して湖岸を離れた。 実に良い気分だった‥‥。 それは多分、この湖の水面からの匂いのタメだろう。 なんか、このまま湖面を一周したい気分だった。 しかし、ますます夕方に向かう空模様が、それを許してくれないようだ。 私はとにかくパワーを上げて、舟を進めていった。 ようやく例の湖岸に着くと、その洞窟は直ぐだった。 穴の感じは、大人がようやく通れる高さだった。 私は暗い中を歩き出したが、不安だった。 照明に使えそうな物を何も持ってなかったからだ。 見ると洞窟の壁に、古いローソクが奥に向かって()えてあった。 「だけど、マッチも何も持ってないんよ‥‥」 いよいよ足元が確認できなくなってきたので、私は立ち止まった。 すると、その据えられたローソクの全てに、火がついたのだ。 「な、なんと! 魔法か‥‥?」 私は、まだまだ続く洞窟の中を歩き出した。 ふと、前方の地面に何やら光る物が見えた。 私は急いで、そこまで行ってみた。 そこで待っていたのは、サッカーボールほどの水晶玉だった。 「そうそう、水晶と言えば占いに使うんだ‥‥」 私は、その水晶玉を持ち上げると、中を覗き込んだ。 中は、ただただ美しかった。 すると、その水晶玉から、 『ようやく会えたね。待ちくたびれたよ‥‥。で、インドの何処から来たんだね?』 「いえ、日本から来た、私は日本人です」 『なんと‥‥私の声は、もうインド人には届かなくなってしまったのか‥‥。だが、ここまで会いに来てくれて嬉しかった。さらばだ‥‥』 やがて水晶玉は、まるで泣いてるように震えだした。 そして次の瞬間、水晶玉はグニャグニャになって私の手から落ちると、まるで卵のように割れ、中から虹色の液体が流れだした。 私は、その流れを追いかけた。 その虹色の流れは、奥へ奥へと流れていった。 すると奥の闇から、まるで朝日のような光が見えだした。 私は、その光に包まれた。 やがて気が付くと、私の前に建っていたのは、自宅マンションだった。 振り向くと、後ろに洞窟は無く、林があるだけだったが、私は礼を言うと、マンションの入り口に向かった。 ――おしまい――
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