18.まっさらな歩みを

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「実は、俺もっ、神戸にいる時からそうすればいいのにと思っていたんですよ! 自営って大変じゃないですか! ただ、シェフの独立って、誰にも縛られたくないから独立するわけですから、十和田シェフもそうはならないだろうって思っていたんですよ。矢嶋社長なら、勝算あるところは予算をたくさんつけてくれるし……!」 「そういうことだ。つまり、今まで以上に自由に素材が使えるようになる。生産者にも今以上に還元できる。作り手なら、より腕をふるえる環境を選んで当然だろ」 「わー、それって! あの社長に相当気に入られているってことですよっ」 「そりゃそうだ。実力ってやつだ」 「さすが、十和田シェフ!!! うわ~、すげえ。俺、いま鳥肌立ってる!!」  また父が『あははは!! ほんっと君は楽しい』と大笑い。  父がまさかの自営を辞める決意をしていた。矢嶋社長の傘下にはいって、このお店ごと『矢嶋グループ』になってしまえば、蒼もおなじ社員でこの店を続けられる……ってこと?? 予想外の展開に、葉子はおろおろするしかできない。 「社長からの指示は、俺とメートル・ドテルの篠田で、この店を潰さないこと!」  そして、最後に父がぽつりと呟いた。 「これからは、俺と妻、娘と婿、家族で乗り切るぞ。いいな、蒼」 「シェフ……、いえ、お父さん。もちろんです!」  うそ、これで……もう……もしかして、蒼と離れなくていい?  また涙が溢れてきて、せっかく声が戻ったのに、なにも言葉がでてこなくなってしまった。 「あ~、葉子ちゃんが、また泣いてる。どうしたの、どしたの~」 「すまんな。手がかかる娘だと思うけどよ……。やっぱ、蒼君のような大人の男で安心だわ」
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