1.葉っぱの子 ハコちゃん

1/12
前へ
/245ページ
次へ

1.葉っぱの子 ハコちゃん

 函館から交通機関でも一時間ほど。  北海道新幹線の到着駅がある北斗市のそば。北海道 七飯町。  標高一千メートルの駒ヶ岳の麓には、大沼 小沼 蓴菜(じゅんさい)沼の湖沼群が広がる大沼国定公園がある。  夏になると湖面にたくさんの睡蓮が咲いて揺れ、冬は結氷し積雪で真っ白になる中、白鳥が飛来する。  大自然のパノラマが広がる景観豊かなこの公園の湖畔に、葉子の父『十和田政則シェフ』が、念願の独立でフレンチレストランを営むこととなり、いま実家がそこにある。  育った場所ではないが、祖父母がすぐそばの北斗市にいたため、子供の頃から何度も訪れたことがあり、葉子にとっても馴染みがある土地ではあった。  だが葉子が成人してから、父が独立のために札幌から移転したため、大沼で暮らすのは初めてのことだった。  東京から帰って来てすぐに、父親のレストランで働くことになる。  オーナーシェフである父から『頼む』とだけ言われ、メートル・ドテル(給仕長)を務める彼が葉子を預かることになった初日。 「えー、シェフのお嬢様ですね。ハコさんですか」  最初から名前を間違えられた。 「葉っぱの子で、ヨウコです」 「あ、そうだよね、そう読むよね。申し訳ない」  そんな読み方する人は初めてだよ――と思いつつも、変わったかんじの男性というのが、葉子の第一印象だった。
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

470人が本棚に入れています
本棚に追加