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出鼻をくじかれる
これまで男性ばかりの職場で働き続けて、毎日残業に明け暮れていた。
なので、お金を使う間もなかった。
有給も、使ったそのほとんどが病院に行くためだった。
奇跡でも起きない限り、死は目の前に近づいてきている。
今に至って、あんなにあくせく働いていたことがあほらしく感じた。
そして、使う目的もなくただ積みあがっていた貯金をそのまま使わずに終わるのもあほらしかった。
これまでの生活すべてがあほらしく感じた私は、余生はやりたいことをやろうと決めた。
もし奇跡が起きて癌が消失なんてことになってお金が尽きていれば、その時に考えれば良い。
生存率を考慮して、医療費と5年程度は貯金で何とでもなる。
その期間の趣味・交際費もまかなえそうである。
そうなると病気のために貯金してきたようだなと皮肉に思いつつ、これまで働いてきたおかげでこれからは好きなように生きられると前向きに考えるようにした。
私は早速会社を辞めた。
癌になった厄介な社員の退職の意向を、上司は引き止めることもなく社交辞令の労わりの言葉と共にすんなり受け入れてくれた。
想定内すぎて笑えてきた。
だが、これで時間の自由は確保できた。
私はやりたいことリストを書くことにした。
・海外旅行(チェコ・スペイン)に行く
・国内旅行(北海道・奥入瀬・五島列島・宮島・貴船etc)に行く
・芸術祭に行く
・多くの演劇鑑賞
・映画館での映画鑑賞
・エキストラをやってみる
・おいしいものをたくさん食べる
・友人とごはんに行く
等々…
書き出して行くと、とめどなく欲望があふれて、気づくと涙があふれてきたので、私iは書き出すのをやめた。
その時の欲求にまかせてこれからは実行にうつせば良いのだ。
早速行動に移そうとした矢先だった。
新型のウィルスが国内に蔓延しはじめたとのニュースが報じられた。
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