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勘違い
一度目の緊急事態宣言時よりも感染者数が右肩上がりにのびていた。
私にとってはもう緊急事態宣言は関係無く、人混みに行くことが怖いとしか思えない状況になっていた。
それでも癌細胞を抑えるために病院には行かねばならない。
ある日の通院で、抗がん剤の予約が取りづらくなっていると伝えられた。
それからはキャンセル待ちとなることが多くなり、抗がん剤の投薬期間が不安定になりはじめた。
主治医ははっきりとは言わなかったが、これもきっと新型ウィルスの影響なのだろう。
医療がひっ迫しているとニュースで何度も報じられていたのだから。
そんな綱渡りの治療をしていたある日、ついにワクチン接種がはじまった。
基礎疾患持ちとはいえ、AYA世代の私の接種順はまだまだ先ではあったが、着々と新型ウィルスの脅威が終わりに近づいていることが嬉しかった。
ワクチン接種さえすれば、やりたいことリストを進められる。
何とか間に合ってくれた。
そしてワクチンの情報を収集し、盲点に気づいたのである。
抗がん剤の影響で、ワクチン接種しても抗体がどれほどできるかはわからないというのである。
さらに追い打ちをかけるように変異したウィルスが出回りはじめ、1日の感染者数は同エリアのよく見かけるコンビニの店舗数よりも多くなっていた。
月日が経つにつれ、ワクチン接種率も上がっていく。
ついに私にも接種の機会が訪れた頃、政府から今後の方針が打ち出された。
『ワクチン接種・陰性証明で制限を緩和する』
それを聞いた瞬間、私は自身の認識の甘さに愕然とした。
ワクチンを接種したからといって感染しないわけではない。
だが制限は緩和される。
人々もこれまでよりは安心感を持って徐々に感染対策が緩くなっていくだろう。
だがどうだ。
インフルエンザのように治療薬が確立されているわけではない。
感染する可能性を低く、重症化する可能性を低くしただけなのである。
しかも私自身は、どれほどの抗体ができたかもわからない。
つまり、これからが一番私にとってはリスクが高い状態ではないのか。
何ら私への脅威は軽減されていなかったのだ。
ワクチン接種率が上がったら、やりたいことリストが叶えられると思っていた私を待っていたものは、今後治療薬が確立するまでの間、感染するかどうかを自身の新型ウィルス感染対策だけに頼らねばならない世の中だったのだ。
完
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