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『運命の相手』とか『赤い糸』という言葉を聞くだけで、あたしの中には恐怖心が芽生えるようになっていた。
青ざめて「やめてよ」と言うと、佐恵子は申し訳なさそうな表情になってうつむいてしまった。
「ごめん。でもまだ、傷が癒えてなくて……」
あたしはそう言って左手を見た。
小指の断面は完全にふさがれているけれど、未だに電気を通したときのような痛みを感じる時がある。
それに……。
視線を更に下へと移動した。
あたしの足首にしっかりと絡み付く黒い糸。
それを見た瞬間、あの部屋の光景が蘇ってくる。
輝明の両親も無事に助け出されたが、まだ入院中だ。
精神的なショックが大きすぎて、二度と日常生活には戻れないかもしれないらしい。
それだけで、輝明がどれほど猟奇的なことをしてきたのか、わかる気がした。
そんな相手とあたしは、まだ糸で結ばれている。
輝明が少年院から出て来たら、その時はまた……。
一瞬、佐恵子の顔が輝明の冷たい笑顔に見えた。
「嫌!!!」
勢いよく、椅子を蹴とばして立ち上がり、佐恵子から遠ざかる。
「朱里? どうしたの?」
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