切る

7/19
前へ
/163ページ
次へ
いつも使っている文房具なのに、今日だけは特別鋭利な刃物のように感じられた。 「運命の糸を切ったって、別に平気だよね……?」 あたしはそう呟いて、赤い糸にハサミを入れたのだった。 あれだけ頑丈だった赤い糸はスルリとほどけ、床に落ちると同時に消えて行った。 「消えた……」 あたしは息を飲んでそれを見つめる。 左の小指には糸が巻かれていた感触も残っていない。 「な……なぁんだ! 運命の赤い糸って切れるんじゃん!」 ホッとしたと同時にそう言い、大きな声で笑った。 これから一生高原に付きまとわれて、いつしか高原の事を好きになってしまって、結婚までしてしまうのかと思っていた。 でも違ったのだ。 赤い糸は切れて、消えた。 もう、あたしと高原は結ばれてなんかいないんだ。 そう思うと背中に羽が生えたような気分になった。 「よかった! これで本当の運命の相手を探せるよね」 あたしはそう呟いて、気分がいいままベッドに横になったのだった。 ☆☆☆ 翌日。 目が覚めると、左の小指に違和感があった。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加