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風に吹かれ緑が揺れている。
緑が揺れると同時にチラチラと木漏れ日の光も踊り、どこか遠くで歌う鳥たちの声が響きあう。
思わず、ため息が漏れた。
大きく力強く存在しているこの木は、一体いつからここにいるのだろう?
きっと、私が生まれるよりもずっとずっと・・・
「おや。珍しいお客さんだねぇ。」
のんびりと響いたその声にハッとして振り返るとそこには小さくて可愛いらしいおばあちゃんがにこにこと微笑んでたっていた。
「あ、こ、こんにちは。」
口を開けて惚けるように立っていたのを見られていたのが恥ずかしく慌てて挨拶をする。
「はい。こんにちは」
にこにこと笑うおばあちゃんは目の前にある木を優しく撫でている。
なんとなく気まずくて視線をウロウロとさ迷わせるているとおばあちゃんはゆっくりとこちらを振り返り
「それで?ちゃんと見つけたかい?」
と言った。
「え?」
なんの事を言っているのか分からなくて見つめるとおばあちゃんはふっと目を伏せた。
「ちゃんと見つけなくちゃダメだよ。後悔するからね。ここに来たってことは、それはとても・・・とっても大切なものなんだ。」
その様子があまりにも寂しそうで、苦しそうで、体の中にぐるぐると疑問は渦巻いているけれど口を開けてもそれらは外へと出なかった。
仕方なく真っ直ぐ口を噤んでギュッと服の裾を握りしめた。
おばあちゃんはゆっくりと動いて木の根元に「よっこらしょっ」という掛け声と共にちょこんと腰をかける。
再度合わせられた瞳には先程のような陰りはなくて、暖かく優しい視線が包み込むように私を見た。
「難しく考えることは無いよ。色々複雑に絡み合ってる。そりゃぁ、確かに必要な時もあるよ。けれどそれは後からへばりついてきたものだ。
迷った時。見失った時。それらは複雑になりすぎて私らの目を覆い隠しちまう。」
朗々と語られる言葉が、私の中に入ってくる。
真っ直ぐにけれど確実に。私の中に染み込むように。
「大切なのは1番奥。何もまとわりついていない最初の気持ち。
自分を誇りなさい。
貴女の代わりは誰にもなれない。人は皆、誰もが特別な存在なのだから。
貴女は、どうなりたいの?その為には何が必要?
貴女が貴女であることが、何よりも大切で大事なことよ。」
風が吹き、枝が揺れる。
チラチラと木漏れ日が踊っている。
暖かい光に包まれて、私の瞳からはポタポタと雫がおちる。
胸から湧き出した色んなものが、詰まって引っかかっていたものを全て押し出していく。
「相変わらず泣き虫ねぇ。それにうっかりさんだわ。」
そんな私を眺め、おばあちゃんはにこにこと微笑んでいる。
「あなたは考えることが好きだものね。昔からそう。だからあなたの見る世界が広がればきっと、いつか忘れてしまう事があるかもしれないと思っていたのよ。」
優しくて、暖かくて、包み込んでくれるような陽だまりのような瞳。
ふにゃりと笑う顔はどこかお茶目で、可愛らしい。
「でも、もう大丈夫よ。なんたって、あなたはーーー」
ザァァァァァァ。
強い風が吹き、目の前をいくつもの木の葉が覆っていく。
おばあちゃんはイタズラが成功した時のような顔をして小さく手を振っていた。
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パチリと目を開けて映るのは見慣れた天井。
身体を起こすと、ポタリと頬から雫がおちた。
乱雑に散らかった自分の部屋を見渡し、部屋の壁にポツンと飾られた1枚の絵を見る。
大きく、力強く存在している立派な木の絵。
生前にもらった祖母が色鉛筆で書いた絵。
どうしてこんな絵がかけるのかと尋ねた私に、祖母は
「頑張り屋さんのあなたの為に、特別な魔法をかけて書いたのよ。あなたが大切なものを忘れた時に助けてくれるわ。」
なんて少しふざけたように言っていたのを思い出す。
「ふふ。」
自然と口角が上がり、笑い声がもれる。
「本当に魔法使いみたいね。」
呟いて、そっと木の根元をなでる。
そして大きく息をひとつ吸い込み、思いっきり頬を叩いた。
「よし!!!」
バタバタと身支度を整えて、カバンを持ち玄関へと立つ。
「行ってきます!!!」
久々に晴れやかな気持ちで吐き出されたその声に、優しい声が応えてくれた気がした。
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