恐怖の親睦会

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めちゃくちゃに腹が立ったけど、雪先輩相手に殴りかかろうもんなら俺に明日はない。がっくりと項垂れる俺に雪先輩は慰めるようにポンポンと肩を叩く。いや、アンタが止めてくれたら俺は生き延びれたんだ…。 「それにしても優希はホラー系統は好みじゃなかったように記憶しているけれど、お化け屋敷に行きたいなんて珍しいね」 雪先輩が優希先輩を見てそういう。えっ、そうなのか?!なのになんで行きたいなんて…! 「んと、お化け屋敷には興味…ないけど…カップルとか……好きな人と行くと仲良くなれるって……」 そう言いながら恥ずかしそうに俺を見る。俺は一瞬自分の後ろに誰かいるのかと振り向き、誰もいないことを確かめ、ようやく合点がいった。……俺!? その言葉と視線の先を辿った雪先輩と城間先輩が、ほ〜お、と言いたそうな顔をしている。 「へぇ、優希を落とすなんて鷹宮くん凄いね。優希は他人に全然興味が無いのに…。その容姿に優希もメロメロになっちゃったってわけかい?」 「いや、磐型先輩は容姿に興味あるタイプじゃねぇだろ。何かあったんだよきっと」 好き勝手に言い始める2人にげんなりする。雪先輩にバレたらからかわれるのは何となくわかっていたけど城間先輩まで。城間先輩はからかってるわけじゃないだろうけど……。しまった、癒し系の優希先輩の好感度が寮長達からも高いせいで誰も止めてくれる人がいない。むしろ応援モードに入ってしまっている。星が1人心配そうにしてくれているのだけが救いだった。 俺だって別に優希先輩が嫌いなわけじゃないし、むしろ今のところ普通に好きだ。わんことか大きい熊さんみたいな優希先輩はみているだけで癒されるし、性格だって最初は素っ気なかったけど今はやさしいし。でも、しかしだ。俺の恋愛対象は女の子だ。 「おい!お前ら!!」 突然後ろで怒鳴り声が聞こえ、驚いて振り向くと、肩でぜえぜえと息をしている神矢先輩が仁王立ちしていた。 親衛隊に揉みくちゃにされたのだろう、髪はいつもよりボサボサだし、制服も着崩れている。 俺も着いていくって言っただろうが!!と凄い剣幕で怒ってくる神矢先輩を、やはり雪先輩がハイハイと軽く受け流す。 「あれぇ、でもいいの?お化け屋敷に行くんだけれど」 雪先輩が楽しそうにそう言うと、神矢先輩の動きがピシッと固まった。……あれ、もしかして、神矢先輩俺と同じ種類の人間なんじゃなかろうか……。もしかしたら神矢先輩がお化け屋敷行きを止めてくれるかも……。 「は、はぁ?!あんな子供騙しのトコ行ってどうすんだよ!せっかくなんだからジェットコースターとか絶叫系に……」 「蓮?これは一年生のための親睦会だよ。そして一年生の桐渓くんが行きたいと言ってる。意味は分かるね?」 勢いのよかった神矢先輩は雪先輩の反応にうぐ、と言葉を詰まらせ、くるりと振り返って逃げようとした。——が、城間先輩にむんずと襟を捕まれ阻止される。2人が寮長室で火花を散らしていた事から考えるに、どうやら相性が悪いらしく、そんな神矢先輩に一泡吹かせてやれる機会を逃すまいとしたようだった。
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