3

1/1
88人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

3

 あの日以降、樹は美月を確実に見つけて現れるようになった。GPSでも仕掛けられてるのではと疑うほどだった。  あれから美月自身も、見つけて欲しいような欲しくないような、複雑な気持ちで写真を撮る。ただSNSにアップした後は、どのくらいの時間で樹が現れるのか楽しみにしている自分もいた。  この日は家のそばにある、大きな池のある公園に来ていた。カップルがボートを漕ぐたびに、水面に弧が広がる。  今日は簡単かな。でもこの広い公園の中で私を見つけるのは難しいはず。  美月は池の水の中へ根を下ろした大木の写真を撮ると、SNSにアップする。  不思議だな。自己満足のツールだったはずなのに、今は樹くんと繋がるための手段になってるの。  まるで鬼ごっこみたい。でも鬼は樹くんのまま変わることはない。  今は朝の九時半。今日も見つけてくれるかしら……。そんなことを考えながら、美月は公園の散策を始めた。 * * * *  美月が写真をアップしてから三十分ほどが過ぎた。たまたまバードウォッチングをしていたグループに教えてもらい、鳥の写真を熱心に撮っていた時だった。 「先輩みっけ。今日は案外簡単だったな」  背後から声がして、美月は跳び上がるくらい驚く。振り返ると、黒いTシャツにベージュのチノパン姿の樹が楽しそうに立っていた。 「い、樹くん⁈ 早くない⁈」 「だってうち、すぐ近くだもん。どこかなぁって池の周りを探してたら、このポニーテールが見えたからさ」  樹の手が美月の髪に触れる。その瞬間、美月は体が震えるのを感じた。ぱっと体を離した美月を見て、樹はニヤッと笑う。 「先輩? あれ、もしかしてちょっとドキドキした?」 「し、してません!」 「なんだ残念。ところでさ、今日はいつもより早く見つけたし、ご褒美欲しいな」 「……なんで? 樹くんが勝手にやってることでしょ?」 「つれないなぁ。でも先輩だって意外とこの鬼ごっこデートを楽しんでるよね」 「……」  否定したかったのに出来なかった。これじゃあ無言の肯定になってしまう。 「ねぇ先輩、今日は隣にいてもいい? 撮影の邪魔はしないからさ。それに俺も今日はカメラを持ってきてみた」 「……持ってたの?」 「実は大学の時に、先輩の真似して買ってみたんだ。上手くは撮れないけど」  どうしてかな。彼の気持ちがすごく嬉しい。 「じゃあ……一緒に撮ってまわろうか?」  樹は嬉しそうに笑う。それを見て、私の胸は何故か苦しくなった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!