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こうして王家と縁を持つ偉業を成し遂げたテレサは、ドルステン伯爵家に大いなる利をもたらした。
外交官の父は出世し、兄は第一王子にもっとも近しい友人となった。美しい容姿で名を馳せた母はふたたび脚光を浴び、社交界で名を聞かない日はないほどだ。
婚約から三年。齢十歳にして、テレサは嫉妬という名の洗礼を浴びた。
もっとも弱く、もっとも幼い少女はドルステン家を羨む者たちの餌食となった。
王宮の庭。テレサが乗った馬が突然暴れ出し、振り落とされた少女はしたたかに腰を打ちつけた。
宮廷医師による治療の甲斐なく後遺症は残り、身体機能を一部損傷した。歩行は困難となり、わずかながらに喉も潰したのか声も細くなった。それまでテレサを形作っていたものの大半が失われた。
王家の名誉にかけて捜された犯人とおぼしき者は複数で、馬に細工をした者だけではなく、毒を盛った者もいたのだとか。テレサへの妬みではなく、それらは父や兄、母に向けられたものであったことがわかったとき、家族らは嘆いた。
職を辞する覚悟を決めた父を止めたのは、他ならぬテレサだ。
父さまはもっともっと立派になるべきなのです。そのほうがずっと素敵だもの。
わたし、運動は得意ではないから、足が悪いのはとってもよい口実です。授業を免除してくださいますわよね。
それに、ねえ、父さま。異国には車椅子というものがあるのでしょう? わたしがそれを使うことによって、同じ苦しみを持つ国民たちの知るところとなるのではないかしら。外交官の腕の見せどころよ。
しばらく休学したのち、テレサは国内第一号となる車椅子保持者となり、広告塔を務めた。
学内では基本的に使用人を配することはできないが、事情が事情だ。特例で認められた少年を従者に携え、テレサは己の身に起きたことなどおくびにも出さず明るく過ごし、その姿は多くの民に讃えられた。
しかし、貴族間の評価はふたつに割れる。
満足に社交ができないであろう令嬢に価値はあるのか。第二王子の婚約者の地位とて、いつどうなるかわからない。なにしろ彼女は、国民の前に「立つ」ことができないのだから。
ゆえに、テレサはフリッツが他の女性と縁を結ぶことを心から応援した。
自分のことを決して重荷にしてほしくない。同情なんてもってのほか。それはテレサの自尊心が許さない。
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