伯爵令嬢は物語を愛する ~ありふれた婚約破棄におけるひとつの結末~

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 あるところに少年がいた。  異国からやってきた少年は、親族に連れられて王宮を訪れることになった。そこでは盛大な宴がおこなわれていた。  見知らぬ国で大人たちに囲まれて萎縮していた少年は、ひとりの少女を見つける。まるで天使のようだった。  来たくもない国を訪れていた少年だったが、少女と話をしてみたい一心で、言葉や文化、歴史を学んだ。事情があって自分の国に帰れない悲しみよりも、少女の近くにいきたいという思いが勝った。  しかし天使は天上の者。少年の手の届かないところにいる。  それでも三年かけて知識を吸収し、師のお墨付きをいただくまでに至った少年に神が褒美を与えた。  いや、少年にとっては褒美だったが、天使にとってはそうではなかったはず。あれは神ではなく、悪魔だったのかもしれない。天使は羽をもがれ、地に堕ちたのだから。  少年は傷心の天使に近づくことにした。良い子どもを演じ、天使の傍に(はべ)ることに成功する。  天使に近づくすべてを排除し信頼を獲得したが、それは天使を守るためではない。悪魔に心を売った少年が、天使を我が物にしようと画策したにすぎない。
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