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よぉーーうこそ! 永遠の白い国へ。
きょろきょろしてもその高さにはいないぜ、足元を見てごらん。
おっと、気を付けてほしいね、あんたの掌くらいしかないんだこっちは。踏み潰されたらひとたまりもない。
ちょっと肩を貸しておくれよ。こんな高低差じゃお互いしんどいだろ。
なあに、こんな小さい奴怖いこたぁねえだろ。俺は「彷徨える案内人」、この国を案内してやるよ。
…… さて、さて。
改めまして、ようこそ酔っ払いの塔へ。
うん? さっきと名前が違うって? お前さんは何て聞いてここへ来たのよ?
天の結び目?
機械の王冠?
名前ならたくさんあるんだここは。誰もがその形容を迷う。砂上の槍、天指す歯車。
ガラクタを寄せ集めてごった煮で積み上げた虚構の塔さ。ふふ…… なんで虚構なのかって? それは後で教えてやるよ。
中階層の商業港から入ってきたってことは、あんたは観光客かな? いいねえ。
どこへ行くんだ? 歓楽街ならすぐ近くにあるが…… そういえば、あんた船を降りるときに通行料を払ったかい?
…… そう、黒い連中がいて取られたろ。なら大丈夫だ。この塔にはここを仕切る連中がいるんだ、厄介な連中だが決まりを守れば害はない。
決まりといっても連中に都合の良いだけの法外な話だけどな!
しかしあんたもさらっと金を渡したって感じだけど、どっかのいい御身分なのかな?
種族は? 見たところ薄羽も無ければ尻尾もないな。亜人に見えるけど、もしかして人…… なわけはないか。
『竜』がこんな場所に顕れるわけないしな。さすがに俺もびっくりだわ。
おおかた人間かな?
俺は、て? あんたによく似てるけど大きさが全く違うだろ。薄羽は無いが亜妖の童話と思ってくれ。正解じゃないが間違ってもない。
まあまあ俺もあんたも何者でもいいのさ。大事なのはあんたが『よそ者』だってことさ。
財布はしっかり懐に入れといてくれよ。中間層とはいえ治安は五分五分、ぼけらっとしてるとすぐ持ってかれるぜ。
ではいざ歓楽街…… じゃ、ない? どこか目的地がある?
…… 礼拝堂へ……?
へええ…… 商業港を通ってきたよそ者が? なるほどなるほど。
いよいよ楽しくなってきたな、こりゃあいい。ちょいと面白い話をしようや、お客人。
いや、立ち止まるな、そのまま上階へ歩こう。留まって連中に聞かれても厄介なんでな。
ところでお客人、この国には様々な種族が生活している。
亜人、亜妖に亜獣、よそ者は知らないだろうが鋼種と呼ばれる存在さえいる。文化も価値観も異なる者たちをまとめるには何が必要か?
─── 信仰だよ、お客人。
もっと言えば、苦痛に落として光を灯すのさ。
ここは300にも及ぶ階層がある。
低階層、中階層、高階層、そして最上階『フォルトアノス』。
それらの階層にいる住人はなんとなく階層の行き来を禁じている。禁止されているわけじゃない、壁があるわけでもない。
だが誰ともなく境界を踏み越えるのを押し留めている。
そうしてそれはそのまま身分となり、住人は断絶され、下から上へ、上から下へ、お互いが脅威となり絶妙な均衡を保っている。
しかしてこの均衡を貫き支えているのが、『フォルトアノス』の信仰だ。
あんたが目指している真っ白な礼拝堂だよ。
この塔を文字通り支えている力があるとされている、誰も見たことのない光。
どれだけ今の生活が暗くとも天上に光が、どれだけ未来が脅かされようとも天上に光が。
住人たちは自分たちの頭の上に揺るがない救いの光があることを信じて今日を生きるのさ。
ふふ…… 何を嗤っているんだって?
俺が最初に何て言ったか覚えているかい、お客人。
ガラクタを寄せ集めて積み上げた虚構の塔さ。
礼拝堂に何があるのか教えてあげるよ。
綺麗なお花畑だ。
夜になれば撒き散らしたような星が見える。最高の場所だ。
光も神さまも無い。ただの広い空き地。
それが上層の思惑だ。
見えない光を流布しバラバラの思想を持つ者たちを束ねる。お互いを監視させつつも上には安らぎを見るように。
頭がいいね。そうして一番の核心を隠してしまう。
本当にこの塔を支えているものを、置き換えて隠してしまったのさ。
偽りの花を咲かせてね。
お客人、お客人、あんた本当に一番楽しいときに来たよ。
今この塔は色んな勢力が引っ張り合っている。
最上階『フォルトアノス』、犯罪組織『エインス』、反政府組織『ウルカアグニ』・『ヨルムサラ』、最下層の守番『クレイテル』……
『フォルトアノス』はもちろん、他の連中も薄々虚構に気付き始めている。
そしてなぜ最上階に花が咲いているのかも。
偶像よりも真実はもっと劇的で、手を伸ばせば触れられてしまうものだ。
ようこそ、お客人。永遠の白い国へ。
さあ、その扉を開けてしまおうじゃないか。
俺は「彷徨える案内人」。
この引き金で一斉に崩れる塔の混沌へ、あんたを案内しよう。
花を咲かせるのさ。虚像よりも鮮やかで、どうしようもないほど美しい花を───
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