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僕は残業で遅くなった帰り道を急いでいた。
もうすぐ日が変わろうとする夜道の闇は深く 通い慣れた通りの雰囲気はまるで異世界を彷徨っている気分だ。
背負ったリュックは持ち帰った資料の重さで肩に食い込み 右手にぶら下げた布袋にはコンビニ弁当とビールが収まっていた。
車がやっとすれ違えるくらいの狭い裏道を足早に通り抜けるとなだらかな丘に広がる住宅街がひしめき合っている。
日中とは打って変わって闇に紛れた漆黒の気配に急かされながら僕は緩やかな坂道を急いだ。
アパートの近くにある街灯はいつものようにカチカチと音を立てながら不規則な点滅を繰り返し 暗闇の何処かに潜む何者かに僕の事を知らせているようでつい辺りを見渡してしまう。
向かい側にある空き地の隅には不法投棄で放置されたままの椅子や机やダンボールが光の点滅の度に浮かび上がり、次に打ち捨てられるのはお前の番だと暗示している様に思えた。
僕はたまにつまらない妄想をしてしまう癖があり そんな時は深呼吸するようにしているのだが小さなため息しか出なかった。
すると何処からかチッチッと鳥の鳴き声が聞こえた気がした。
立ち止まり耳を澄ますと間違いなく鳥の鳴き声のようだ。
こんな遅くにどこで鳴いているのだろうか?
それとも妄想の欠片だろうか?
僕はそう思いながら声の主を探した。
どうやら妄想ではなく不法投棄されている机のあたりから聞こえて来るのでスマホを照らして見ると直ぐに見つけた。
小振りの鳥かごの中で突然の光に驚いたのか小鳥が飛び跳ねながら羽を鳴らした。
今まで鳥には全く興味がなく飼育した事もない自分にとって何と言う鳥なのか全く分からなかったし、このまま放置すれば何かに襲われてきっと朝まで持たないかもしれないと思った。
僕は黄色い絵の具で色付けした様なこの小鳥の状況をスマホで撮影して後で言い掛かりをつけられないように証拠を残した。
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