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「それから どうしたのか全然思い出せなかったんです
覚えているのはこの店の前で佇んでいた事です
店も閉まって真っ暗でどうしてここにいるのかさえ分からず呆然としました
足も棒のようでもう歩けないとしゃがみ込んでしまう程でした」
僕はやはり厄介な人なんじゃないかと思いつつグラスの水を飲んだ。
彼女は僕が水を飲み終わるのを待って話を続けた。
「それでも漸くアパートに辿り着くと鳥かごがない事に気付きました
部屋中を探している内に部分的に少しずつ思い出したんです
わたしが鳥かごを棄ててしまった事をです
それは彷徨ったあげく暗闇の中でカチカチと音を鳴らし点滅を繰り返す坂道の途中にある街灯に呼ばれるように辿り着き...
そしてどうしてあんな事をしてしまったのか
わたしは鳥かごのカリナを...
自分の魂をそこに置き去りにしたのです
それは自分の身体がいつ消滅してもいいようにそこに封印したかったのかもしれません」
「お待たせしました
ナポリタンランチはどちら様でしょうか?」
店員の声が遠くから聞こえた気がして、
僕は無意識の内に手を上げていた。
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