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僕は嬉しさと興奮で上手く呼吸が出来なくなっていた。
波立つ海に張り付いた体のシルエットと髪型は間違いなくカリナそのものだったからだ。
僕はやっと会えたと思い辺り構わず叫んでいた。
「カリナ!」
何度叫んだか覚えていない。
するとカリナは僕の方を振り返り微笑んだ様に見えた。
僕は確信し安堵して嬉しくなり手を振った。
ところがカリナは目の前の細い手すりに足を掛け乗り越えようとし始めた。
夕日はすでに空全体を赤く染めていた。
「えっ...?
カリナ!
ダメだ!
ちょっと待ってくれ!」
僕は目の前で起こっている景色が夢であってくれと祈りながら はち切れんばかしの声を張り上げ彼女の元へ飛ぶように走り抜けた。
手すりの向こう側でカリナは座り込み辛うじて右手で手すりを掴んでいた。
僕はありったけの脚力でカリナの元へ滑り込んだけれど、
あっ!
彼女はスッと立ち上がると赤色の夕日に向かって体を預けた。
スローモーションの様に感じながら僕はカリナの腕に手を伸ばした。
落ちて行くカリナの手首を掴めたのは奇跡だった。
その瞬間 いくら華奢だとはいえ僕は彼女の体を支え切れずに闇が立ち込めた白波だけが際立つ奈落へ引きずられそうになった。
それでも僕は彼女の右手首を辛うじて掴んでいた。
「カリナ...
お願いだから
君の左手も僕の手を掴んでくれないか...」
僕はそう言いながら腹部に食い込んだ細い手すりの上から呼吸もままならない状態で自分の右腕がちぎれると思いながら囁いた。
ところが僕を見上げたカリナの顔は明らかに困惑していて彼女が言い放った言葉に耳を疑った。
「君は誰?
どうして邪魔するの?
僕の手を離してよ
やっと開放されるのに...
手首痛いし...
放してくれないかな」
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