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彼女は僕の顔を覗き込み涙いっぱいの顔で泣きじゃくっていた。
これほど悲しみに満ちた泣き顔の女性を見たのは初めてだと思った。
彼女は怪我をしたのか 右腕にはギプスをして左手で杖をついていた。
「どうしたの?
なぜそんなに泣くの?」
僕の視野の一番端っこに佇む彼女に尋ねた。
「・・・・・」
「どこかで会ったっけ?」
「・・・・・」
佇むだけのその女性は名前を“瀬野”と言っただけで只々泣いているようだった。
以前 同じ名の男性が来たのを思い出した。
夫婦?兄妹?親戚?
どうでもいいや と思いそのまま眠ってしまった。
それから目覚める度にその女性が側にいた。
と言う事は常に僕の側にいるという事になる。
特に何を話すでもなく奇妙な程 ただそこにいた。
いくらかの時が過ぎたある日
僕はいい加減 気に触ってその女性に強い口調で尋ねた。
「なぜいつも僕の側にいるんです?!
一体何の関係があるって言うんですか?
何も話さないし ただ見ているだけ...
見舞いでもなさそうだし
申し訳ないけど気持ち悪いんです」
「すみません...
今は何も聞かず...
ここに居させて下さい
お願いです」
彼女は俯いたまま蚊の鳴くような声で呟いた。
「...嫌です
もうここに来ないで下さい
逆の立場で考えてみてくれる?
僕のこの姿...
可笑しいでしょう
滑稽でしょう
こんなのに興味あるんですか?
僕は見せモノじゃないんだ!
二度と来るな!」
僕は自分でも驚く程の声を張り上げた。
「わたしが原因です!
沖さんがこうなったのは全部わたしのせいなんです!」
彼女は振り絞るように震えた声で言った。
僕はその時 この子が遠い記憶の海面からすっと顔を覗かせたように感じた。
そして僕は呟いていた
「カリナ...」
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