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最終話
少しずつ少しずつ記憶を取り戻しながら泣き笑いの時を過ごした。
そんな時には必ずカリナが側にいた。
彼女が来ると必ず、
「魔法の時間だよ」
そう言いながら病室に入って来る。
「おう 魔女さん今日も頼むね」
僕はそんな他愛のないやり取りを愛した。
相変わらず身体の感覚は戻らず、それでも毎日の様にカリナは僕の指腕足先ふくらはぎ腿、身体にはお灸をして終わる頃には汗だくになっていた。
身体の感覚はなくても心は蘇生して豊かだった。
ほぼ毎日の様にそれを繰り返したある日。
あの崖から飛び降りてから1年になったとカリナから聞かされた。
僕は以前から気になっていた事を話そうと思っていると逆に彼女から話があると神妙な顔で言って来た。
石廊崎での事は断片的には思い出していたが全然不十分だった。
「アラタ
あの時の事を話すね
ずっと気にしてたでしょ
実は不思議な事が起きたみたいなの
あなたはわたしを諦めなかった
諦めてたのはわたし...
身も心もあなたの事も全部“僕”に預けてしまっていたのだから
でもあなたと落ちた時 小さな岩の出っ張りにあなたは引っ掛かり そしてわたしがあなたの上に落ちたらしいの
あり得ない事だった
先に落ちているわたしが貴方の上に落ちるなんて...
そうなる為には、
貴方は落ちて行くわたしをもの凄い力で引上げ、そしてわたしを守る様に抱きかかえながら落ちた
そうとしか考えられないって...
それに偶然 通り掛かった漁船から岩に引っ掛かった私たちを見つけてくれたの
でもすでに暗闇が広がっていて船も近づけずにいたんだけど私たちのいる場所はハッキリしていた
何故かって...
仄かな黄色い光で私たちは包まれていたらしいの
そして救助隊が来てくれて大規模な作業が始まった頃にはその光は消えていた」
カリナはひと息ついて僕の顔を見て頷いた。
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