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お寺の様子はあの時と変わらず本堂の周りには至る所にオレンジ色の花が咲き誇り芳しい香りで包まれていた。
カリナはその花の香を嗅ぎながら、
「キンモクセイは初恋の香りなんだよ」
そう言って 微笑んだ。
「キンモクセイって言うんだ
どこかで嗅いだ香りだ」
僕がそう言うと、
「貴方はまだ寝ていらした
私がお見舞いに行った時は誰もいらっしゃらなかったから庭に咲いていたこの花を枕元に置いて帰りました」
うしろから声を掛けたのは住職の奥さんだった。
僕は涙がポロポロと流れだし止まらなかった。
カリナは杖をついた僕の手を強く握り締めて奥さんに軽く会釈した。
「二人共 元気になって良かった
ほんと良かった」
奥さんも涙を滲ませた。
「ニュースを見て直ぐに分かったの
あなた達だって
それにジュンさんとも知り合っていたから大体の様子は聞いてたの
危篤状態だって聞かされた時 住職は二番目の息子まで仏に仕えさせられないと言って長い願掛けをしたの
本当に私達も救われた気分よ
カリナさんって...
お兄さんから名前をお聞きしましたけど あの時 本堂で見た方とは全然別人みたいに笑顔が素敵な方ですね
きっと沖さんが幸せにしてくれてるのね」
「奥さん
彼女は以前から笑顔が素敵な女性なんですよ
僕はその笑顔を好きになったんですから」
「あらあら...おのろけかしら」
僕たちは笑った。
本堂で祈願してまた来ることを約束してお寺を後にした。
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